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【底流】「統一要求が必要だった」 自動車春闘に不満の声も

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【底流】「統一要求が必要だった」 自動車春闘に不満の声も

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 自動車大手各社の平成26年春闘は、ベースアップ(ベア)に相当する賃金改善の全社実施で決着した。ただ、その結果を見ると満額回答から要求額の約4分の1まで、各社の判断は大きくばらついた。政府主導の追い風を受けた春闘だけに、明暗を分けた組合側からは嘆き節も聞こえる。最大手・トヨタ自動車の減額判断が水を差したとの指摘もあるが、業界内では「統一要求」で具体的なベアの金額を掲げなかった自動車総連の対応を“敗因”とする声も少なくない。

 ■トヨタ慎重

 春闘の一斉回答終了後、ある日産自動車幹部はこう言って苦笑した。

 「うちだけ格好付けた形になったな」

 日産自動車は、集中回答日の1週間前の5日、「一日も早くみなさんの期待に応え、気持ちを一つにしてやっていきたい」と労組側に満額回答する方針を早々と伝えた。

 日産は今期、中間決算で業績予想の下方修正を余儀なくされるなど、自動車大手では出遅れ感が目立つ。だが、「安倍晋三政権は(自動車業界が求めた)円安の流れを作ってくれただけに、政府の要請には応えたい」と満額回答を決定した。

 日産の判断は、すぐにトヨタにも伝わった。だが、トヨタは慎重だった。

 豊田章男社長は、「組合員の努力と頑張りになんとか応えたい。ただ、仕入れ先、販売店のみなさんや、(工場閉鎖する)豪州をはじめ、ともに頑張っている世界中の仲間や世間からどう受け止められるか」として、満額回答を避けた。

 トヨタ自身は十分な賃上げ余力があるが、突出すれば裾野の広い取引先を含めた格差が広がる。さらに、「労使交渉に政府が介入する異常事態にくさびを打つ」(関係者)と、来年の春闘交渉を見据えた判断もあったとされる。

 ■経営側が主導

 一方で最も割りを食ったのは、軽自動車のダイハツ工業とスズキの労組だ。

 トヨタグループのダイハツは、グループとしてベアを実施せざるを得ない。だが、「27年度からの軽自動車の増税もあり、先行きが不透明」と経営側は最後まで慎重な姿勢を崩さなかった。同様にスズキも「軽自動車の増税は経営に打撃」と公言しながら、ベアを実施したとあっては、取引先などに説明がつかない。スズキは水面下で、記者団に「ゼロ回答」とまで宣言して労組を牽制(けんせい)した。

 結果、両社は組合員平均でベア800円という低水準で決着した。ある労組幹部は「スズキ、ダイハツの春闘は完全に経営側が主導権を握ってしまった」と分析する。

 このほか、ホンダの経営側も「これまで物価上昇した場合は必ずベアを実施すると取り決めてきた。まだ、上昇していない現状にもかかわらず、今回の争点を政府の要請以外とするならば、ゼロ回答」とまで労組側に迫ったとされる。

 ■統一要求

 「個別の労組ができることには限界がある。数の論理が働かなければ労組は経営側に強く出られない」

 ある労組幹部は今回の自動車春闘をこう指摘したうえで「自動車総連が統一の金額基準を示していれば、ダイハツやスズキでもベアを上積みできたはずだ」と述懐した。

 電機や鉄鋼、造船などは、統一要求で金額の足並みをそろえた。だが、自動車総連は、統一要求でベア金額の要求基準を示さなかった。前回、ベアを統一要求した21年春闘での経験を踏まえた判断だ。

 当時、自動車総連は月4千円以上と金額を明記した。北米を中心に好業績だった20年度上期を踏まえて設定した金額だ。しかし下期にリーマン・ショックに見舞われた結果、要求策定には困難を極めた経緯がある。

 現在、好調な自動車業界でも、加盟労組間や業種により、賃金や労働条件などの格差は大きい。各労組が実態に合わせた要求を策定し「全員で必ず賃金改善を勝ち取るため」(相原康伸会長)と、あえて具体的な要求金額を掲げなかった。

 だがその結果、労組も企業側の思惑を押し切ることができず、結果的に800~3500円まで回答額の格差につながった。

 行き過ぎたベアを実施すれば経営を圧迫するのは事実だ。ただ、政府の後押しが強い今春闘では、労組側の戦略ミスを指摘する声は少なくない。ある労組幹部は「政府要請がなければベアできないなら、労組の存在意義がなくなる」としたうえで、こう断言した。

 「来年こそが正念場だ」              (田辺裕晶、飯田耕司)

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