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【底流】容赦ない合理化…人材流出懸念 東電・新再建計画

ニュースカテゴリ:企業の経営

【底流】容赦ない合理化…人材流出懸念 東電・新再建計画

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福島第1原発の除染費用など国の支援を拡充した総合特別事業計画の認定を受けた東京電力。新会長に就任する数土文夫取締役(左)のもと、再建を目指す(コラージュ、写真は代表撮影)  東京電力の新たな総合特別事業計画(再建計画)が、ようやく政府に認定された。昨年9月に本格的な策定作業をはじめてから3カ月あまり。“難産”の末、東電側が求めていた除染費用などに対する国の支援拡大を取り付けた。一方で、東電には電力自由化の推進や大胆なリストラなど、身を切る義務も課せられた。脱国有化を目指す東電の再生への道のりには、原発再稼働など難題が山積している。

 負担軽減「国に敬意」

 「土地・建物の価値減少分を賠償するだけでなく、除染まで負担するのは“二重請求”だ」

 再建計画の策定が進む昨年10月。東電執行部ではこんな不満が噴出していた。

 東電は原子力損害賠償法に基づく損害賠償とともに、放射性物質汚染対処特措法に基づき、除染や汚染土をためる中間貯蔵施設の建設費もすべて負担するとされていた。東電にとっては、福島第1原発事故の対策費用をめぐり、国との負担の線引きを明確にすることが、再建計画策定の最大の課題だった。

 こうした中で福島第1原発の汚染水問題が深刻化。政府・与党内でも「すべて東電に押しつけたことで、福島事故の対策が後手に回った」(茂木敏充経済産業相)との声が強まり、政府は12月20日に復興加速の新指針を閣議決定した。

 これにより、東電に対する原子力損害賠償支援機構(原賠機構)の無利子融資の上限を9兆円に拡大▽政府が保有する東電株の売却益を除染費用(2.5兆円程度)にあてる▽中間貯蔵施設の建設費(1.1兆円程度)は電源開発促進税を投入する-など国の支援が拡大し、東電の負担は軽減された。

 新計画が政府に認定された今月15日の会見で、4月1日に新会長に就任する社外取締役の数土文夫・JFEホールディングス相談役は感謝の言葉を述べた。

 「国は2歩、3歩も前に出た。敬意を表する」

 「優秀な人材が流出」

 新計画で東電は、廃炉と賠償に専念できる態勢が整った。だが、その代償として、身を切るような厳しい施策も盛り込まれた。

 グループ全体で希望退職者2000人を募るほか、震災時に50歳以上だった500人の管理職は役職を外して福島専任とし、賠償業務にあたらせるなどの施策だ。東電幹部は「福島事故前に東電を戻そうとする守旧派を一掃するのが狙い」と説明した。だが、社内では「優秀な人材がますます流出しかねない」(中堅社員)との懸念も強い。

 広瀬直己社長はこうした合理化策に「相当の痛みが伴う」としながらも、「3~5年先にどうしていくかを真剣に考えるのは、その時点に定年を迎える人では難しい」と語る。

 7年度末に単体で約4万3000人いた社員は26年度末で3万4200人にまで減る見込みだ。前回の再建計画の目標を7年も前倒しで達成できる計算だが、福島事故後の依願退職者はすでに20~30歳代を中心に1500人に上る。

 東電は26年4月、福島事故後に中断した新人採用を再開予定で、約370人の内定者がいる。広瀬社長は28年からの電力小売り全面自由化を視野に「国際的取引をしながら、エネルギーセキュリティーを守る仕事の面白さに、シェアや新製品で競い合う普通の企業の仕事の面白さが加わる」と若手社員に期待を寄せる。

 柏崎刈場原発、再稼働がカギ

 ただ、東電が生まれ変わるための猶予期間は決して長くない。脱国有化に向け、政府や原賠機構、社外取締役が東電の経営再建や汚染水対策などの進捗(しんちょく)をチェックし、原賠機構の議決権比率を2分の1未満に引き下げるかどうかを判断する。再建計画ではこの判断時期を、28年度末に設定した。

 数土氏は「失った信頼をこの3年で取り戻さなければならない」と宣言し、2030年代前半の脱国有化を目指すが、経営再建に欠かせない柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働は不透明だ。新潟県の泉田裕彦知事は新計画を「株主責任も貸し手責任も棚上げされた『モラルハザード』の計画だ」と激しく非難し、再稼働に対しても慎重な姿勢を崩していない。

 新計画は柏崎刈羽4基を26年度内に再稼働し、燃料費を年4000億~5000億円減らすと想定している。しかし再稼働が大幅に遅れれば、東電は電気料金の最大10%の値上げが必要だとしている。福島事故対策への国費投入に加え、相次ぐ値上げで消費者の「東電離れ」が進む懸念も残る。(宇野貴文)

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