SankeiBiz for mobile

【底流】「ニフティ おまえもか」 切り売りされるプロバイダーの黄昏

ニュースカテゴリ:企業の情報通信

【底流】「ニフティ おまえもか」 切り売りされるプロバイダーの黄昏

更新

ビッグローブを売却したNECの遠藤信博社長(右)と、ニフティ売却を検討する富士通の山本正已社長(左)。メーカー系プロバイダーは大きな転換期を迎えた(コラージュ)  大手電機メーカー傘下のインターネット接続事業者(プロバイダー)が、業績改善に向けた“切り売り”の対象となっている。NECが3月末にビッグローブを売却した。さらに富士通も子会社のニフティの売却を検討している。かつて家電大手の系列プロバイダーは、親会社が生産するパソコンの普及を後押しする存在だったが、国内メーカーのパソコン事業が低迷し、戦略転換を迫られた。パソコン通信の黎(れい)明(めい)期(き)を支えたメーカー系プロバイダーは、黄昏を迎えている。

 親会社の都合

 「黒字を続けて親会社に貢献してきたのに、あっさり切られるなんて…」

 ビッグローブのある幹部は憤りを隠さない。NECは安定した収益を得られる法人向けビジネスに事業の軸足を転換した。個人向けサービスが中心のビッグローブとは事業の相乗効果が得にくくなり、日本産業パートナーズ(JIP)への売却を決めた。

 家電大手が系列プロバイダーを売却するのは、市場環境の変化が大きく影響している。家庭用パソコンの普及期において、パソコン通信やインターネットなどのサービスを提供するプロバイダーは、親会社のパソコン販売に貢献する相乗効果を生んだ。

 しかしその後、国内メーカーのパソコン事業は中国や台湾勢の台頭で、撤退や縮小を余儀なくされた。現在はタブレット端末の普及でパソコンの出荷台数も減少傾向にある。NTTグループやソフトバンクなど、通信大手の系列プロバイダーがシェアを拡大する中で、メーカー系プロバイダーは親会社の事業との相乗効果が得られなくなっていった。

 「売り時」判断

 こうした動きはNECだけではない。富士通は、10年以上前から懸案事項だったニフティの売却について、今年初めから本格的な検討を始めた。

 長年、懸案のまま棚上げされてきたのは、ネット事業に強いこだわりを持ち、社内で絶大な権力を持つ秋草直之相談役が、売却に強く反対したためだとされる。平成21年にはニフティの売却話を進めた野副州(くに)旦(あき)元社長が、突如解任される騒動もあった。

 この騒動以後、封印されていた売却話が本格化した背景には、秋草相談役の経営関与が薄れたことに加え、「ビッグローブ売却の影響が大きい」(証券会社関係者)という。

 JIPへのビッグローブ譲渡により、NECは700億円程度の売却益を得たとされる。一般的にプロバイダーの売却価格は、現在の契約者数に1万円を掛けた額が相場だが、契約者数約300万人のビッグローブは相場の2倍近い破格値がついた。

 ニフティに買収を提案したのがJIPだけに、富士通側も高値での売却に期待が高まっているという。

 業績悪化で切り売り

 「次は自分たちが売却されるのではないか」

 26年3月期決算が2年ぶりの最終赤字転落となるソニー。子会社のソネット社員からは、こんな不安の声が漏れる。

 ソニーは2月の業績修正とともに、パソコン事業の売却やテレビ事業の分社化など構造改革を発表し、その後も旧本社ビルや保有株式の売却など資産の切り売りを進めた。

 そのキーマンが、昨年12月にソニー本社に復帰し、今年4月にソニーの最高財務責任者(CFO)に就任したソネット前社長の吉田憲一郎氏だ。

 吉田氏がソネット社長だった昨年1月に、ソニーはソネットを完全子会社化した。その後、ソニーはソネットが保有していたソーシャルゲーム大手ディー・エヌ・エー(DeNA)や医療情報会社エムスリーの株式を売却。両社の株式売却で、600億円近い売却益を得たとみられる。

 人気ブランド「バイオ」を擁するソニーのパソコン事業売却も吉田氏が手がけた。売却先はビッグローブと同じJIPだ。それだけに業界内では「次の売り物はソネット」との声が高まっている。

 ただ、親会社の意向やしがらみに振り回されるよりも、売却先の支援を得て、新規事業や経営再編を進めたほうが企業価値が高まるとの見方もある。JIPに売却されたビッグローブも3~5年後の上場、独立を目指す。同社の古関義幸社長は、こう打ち明けた。

 「これでスピードを生かした経営ができる」(黄金崎元) 

ランキング