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【底流】中国、穀物・畜産に買収攻勢 13億人の巨大胃袋…日本企業警戒

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【底流】中国、穀物・畜産に買収攻勢 13億人の巨大胃袋…日本企業警戒

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 チャイナマネーが世界の食糧地図を塗り替えようとしている。中国最大の国営食糧商社、中糧集団(コフコ)は今月2日、アジア系穀物商社ノーブル・グループ子会社を傘下に収めることで合意した。2月には、オランダの穀物商社のニデラも子会社化し、世界の穀物メジャーに並ぶ存在となった。中国勢の買収劇は穀物にとどまらず、畜産加工会社のM&A(企業の合併・買収)も相次ぐ。入札で日本勢が負けるケースも増えており、国内大手商社は中国企業と手を組むなど商機の拡大を急ぐ。

 日本は蚊帳の外

 昨年10月に来日したオランダの穀物商社ニデラのトップは、日本の大手商社に相次いで25%程度の資本参加を持ちかけた。ニデラは将来、世界の“食糧倉庫”に成長する南米の生産地に大きな影響力を持つ。ある大手商社は幹部がオランダまで出向き、出資について膝詰めで談判したほどだ。

 しかし、ふたを開けるとコフコが1200億円超とされる破格の買収額でニデラ株の51%を取得し、子会社化を決めた。日本勢は蚊帳の外だった。

 業界内ではコフコの新たな買収の噂もささやかれる。歩調をあわせるように中国政府は4月、ブラジル産トウモロコシの輸入解禁を発表した。大手商社幹部は一連の動きを「中国企業の動きは国策そのもの。人口増加を背景に争奪戦になる食糧資源だけに、日本の民間1社の力では限界がある」と嘆いた。

 これまで世界首位の大豆生産国ブラジルでは、穀物メジャーに続いて日本の大手商社が先行していた。三井物産は同国最大の農業生産法人と提携し、バイア州などで大規模な大豆農場を経営。三菱商事は穀物集荷会社を子会社化した。

 このほか、丸紅はブラジルの港湾施設会社を子会社化し穀物輸出ルートを押さえたほか、双日も農業生産法人に参画し、4月に本社から8人を送りこんだ。南米戦略で先行していた日本勢だが、中国はニデラの買収で出遅れを一気に巻き返した格好だ。

 米社にも食指

 13億人の巨大な胃袋を持つ中国が、食料の生産地と直接手を組むことに対する日本企業の警戒感は根強い。「日本向けの食料の供給元を、中国企業に奪われかねない」(関係者)との懸念からだ。

 中国企業による大型買収に先鞭をつけたのが、昨年9月の中国食肉大手、双(そう)匯(かい)国際(現萬洲国際)による米豚肉大手のスミスフィールド・フーズの買収だ。スミス社の最大顧客は日本だけに、業界関係者には衝撃が走った。

 さらに買収劇は続く。12月に双匯国際はスペインの食肉加工大手の買収を提案したほか、飼料最大手の新希望六和も豪州4位の農場・牛肉加工のキルコイを傘下に収めた。

 かつて畜産自給を国策としてきた中国だが、経済成長や食生活の変化で国内生産が需要に追いつかず、海外の牛肉や豚肉農場の買収で安定供給を図る戦略に転換した。中国国内では水不足の問題もあり、穀物に加えて食肉も輸入拡大の布石を打つ。

 また、中国では食品安全に対する消費者の不信感も根強い。「海外に供給先を求めるのは、消費者が安心・安全を求めているという事情もある」(資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表)との指摘もある。

 今後は世界規模で優良物件の争奪戦が激化する懸念が強い。実際、ある日本企業は検討していた豪州の牧場買収を断念した。中国勢が入札価格をつり上げたためだ。

 中国に商機

 こうした中で日本企業は、中国市場を取り込んで自社の購買力を高め、日本向けを含めた食料の安定調達を目指そうとしている。

 「異変だ…」

 丸紅の豪牛肉生産子会社レンジャーズバレーでは、昨年から中国向け輸出が前年比3~4割伸びた。日本人の嗜好に合わせた高級穀物肥育牛が人気の秘密だ。丸紅畜産部の野村和伸部長は「中国向けを増やす一方、拠点増強や米国など畜産生産拠点も検討したい」と意気込む。

 同様に伊藤忠商事は昨年1月、中国を中心としたアジア市場での販売拡大を視野に、カナダの養豚・豚肉の一貫生産会社ハイライフに資本参加した。三菱商事もコフコや伊藤ハム、米久と豚肉の生産事業に参画するなど、食肉や加工食品事業を拡大し、巨大市場を取り込む構えだ。

 今後の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉次第で農産物の輸入形態は大きく変わる可能性がある。日本企業はライバルでもある中国企業とも手を組むしたたかな戦略で、生き残りを図る。(上原すみ子)

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