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【底流】ネット生保 進む価格破壊 成長モデルの確立に試行錯誤

ニュースカテゴリ:企業の金融

【底流】ネット生保 進む価格破壊 成長モデルの確立に試行錯誤

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 インターネット生命保険で“価格破壊”が進行している。アクサダイレクト生命保険が3月に主力となる、期間限定で掛け捨ての生命保険「定期死亡保険」を2~3割値下げしたのもつかの間。5月にはライフネット生命保険が同保険を平均7%下げに踏みきり、ネット専業の大手2社が業界最安値を争う状況だ。低価格という原点回帰で契約拡大を狙うが、ネットのみを販路とするビジネスモデルに限界も指摘される。

 8社が熾烈な競争

 「やられた…」

 アクサの斎藤英明社長は2日に発表されたライフネットの新商品の内容に、思わずこうつぶやいた。

 アクサは3月に定期死亡保険を刷新し、中心顧客層(20~40代)では当時、保険料が最安値だった楽天生命を下回る価格をつけた。しかしライフネットの新商品は、死亡保障1000万円の30代男性の場合、保険料がアクサより10円安い月額1230円だった。アクサの最安値の旗印はわずか2カ月に終わった形だ。

 アクサとライフネットの専業2社で始まったネット生保業界だが、オリックス生命保険や楽天生命など新規参入が相次ぎ、現在は計8社がしのぎを削る。消費者は保険料の比較サイトなどで容易に各社の保険を比較できることから、ライフネットの出口治明会長は「他社より上を狙うのは当たり前だ」と言い切る。

 契約者数が急減速

 各社の激しい競争は、業界が抱える苦境の表れだ。ライフネットは15日、25年度の新規契約数が前年比23.8%減になったと発表した。同様に、アクサも減少する見通しだ。右肩上がりだったネット生保の新規契約者数は急減速している。

 一方、代理店などを持つ通常の生保業界では、個人保険の新規契約が25年4月~26年2月の累計で前年比1.5%減と減少幅は緩やかだ。

 数万人規模で営業職員を抱える大手生保に比べ、ネット生保は人件費など経費負担が少ない。そのため保険料も大手の半分ですむ、という価格競争力がネット生保の魅力だった。

 価格競争力で一定のシェアを得たネット自動車保険と同様に、10%近いシェアが期待されたネット生保だが、保険料収入ベースでのシェアはまだ0.1%に満たない。想定と異なり、価格だけで取り込める顧客層はほぼ一巡し、転換点に差しかかった。アクサの斎藤社長は「価格は必要条件だが、価格だけでは勝負できない」と打ち明ける。

 ネット生保が踊り場を迎えた背景について、ライフネットの出口会長は「想定外の変化があった」と分析する。

 変化のひとつはスマートフォン(高機能携帯電話)の普及だ。パソコンに比べスマホの画面は小さく、複雑な保険の手続きには不向きだ。実際に登録作業の途中で止めてしまう人も少なくない。そして東日本大震災を機に、いざというときに必要な保険は「やはり対面サービスが安心できる」と、顧客志向も変化しつつあるという。

 店内販売に舵切る

 こうした中で、ネット生保は新たな販路開拓に乗り出した。アクサは1月に福岡銀行、北国銀行と提携し、窓口での保険販売を開始した。同様にライフネットも12日にアドバンスクリエイトが運営する保険代理店「保険市場」で店頭販売を始めた。「ネットだけでは厳しい」(斎藤社長)という思いが、戦略転換につながった。

 ただ、ネットでの直販により中間コストをカットした従来のビジネスモデルと異なり、手数料が必要な代理店をはさむことでネット生保は新たな費用負担を抱えた。冒頭のわずか10円差の値下げも、利幅が減少するなかで身を切るようにして積み上げた価格設定だ。

 「主眼は多数の契約者を抱える大手生保から、いかに契約者を取るかだ」

 ライフネットの出口会長は、価格競争の背景をこう打ち明ける。

 各社の保険を扱う乗り合い代理店の店舗は過去6年間で約4倍の約1500店に拡大し、大きな販路となった。大手生保も2~3割安い代理店向けの商品開発に着手するなど、本腰を入れつつある。ネット生保の身を切る値下げは、代理店で消費者から選ばれる価格競争力を得るための苦肉の策だ。

 ただ、“薄利多売”のビジネスモデルが、今後の成長につながるかは未知数だ。一方でSBIホールディングスが年内にもネット生保に再参入するほか、第一生命保険や住友生命保険も「今後の市場規模を踏まえて検討していく」と、大手も参入をにおわせる。過酷な生き残り競争が本格化するのはこれからだ。(万福博之)

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