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【底流】NTT規制緩和めぐり攻防勃発 「独占回帰だ」反対するライバル企業

ニュースカテゴリ:企業の情報通信

【底流】NTT規制緩和めぐり攻防勃発 「独占回帰だ」反対するライバル企業

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 NTTに対する“規制緩和”の動きが鮮明になり始めた。わが国の通信市場の変化を踏まえた競争政策の見直しを目的に、総務省がスタートした情報通信審議会の特別部会。8日に開かれた第2回会合では、公正競争の徹底など5原則が提示され、委員からも規制緩和の声が相次いだ。

 しかし、ソフトバンクやKDDIなど他の通信事業者は「NTTの独占回帰だ」と強く反対している。11月に報告書を取りまとめる“短期戦”だけに、通信各社の攻防はこれからが本番だ。

 相次ぐ緩和の声

 「1万人のうち1人が不正をするからといって、9999人の利便性を犠牲にすべきではない」

 8日の特別部会で一橋大学イノベーション研究センターの米倉誠一郎教授はこう述べ、事業の開始後に監査・規制する「事後規制」が、本来あるべき姿だと主張した。同様に明治大学の新美育文教授も「自由化して、違反したら重いペナルティーを科す事後的な規制」を求めた。

 特別部会の焦点に浮上しているのはNTTの規制緩和だ。伏線は4年前の「光の道」構想にある。

 「光の道」構想は2015(平成27)年に、光サービスを中心としたブローバンド(高速大容量)通信を全世帯へ普及することを目指した。議論の過程でソフトバンクの孫正義社長は、NTTから光回線などのインフラ部門を分離し、通信各社の出資で回線敷設会社を設立する「NTT光回線設備分離論」を主張した。

 だが、最終的にはNTTの光回線貸し出し部門と利用部門を完全分離し、設備貸し出しの公平性を確保するとの条件で、この主張は退けられた経緯がある。

 今回の特別部会で総務省は、第2次安倍晋三政権の産業競争力強化政策と呼応して、社会インフラにおける情報通信技術(ICT)の役割拡大を中心テーマに据えた。その実現にはNTTに対する規制緩和が必要だと判断した節がある。

 競争を促進

 総務省幹部は今年1月、「(固定通信と携帯電話のセット割引ができない)NTTドコモの規制はこのままでいいのかという問題がある」と指摘した。

 省内では、NTTグループの東西地域会社とドコモの連携を禁止する規制の緩和に向けた検討を始めていた。

 ドコモの携帯電話契約数のシェアは10年前の16年3月末に54・6%と過半を占めていた。だが、25年3月末には43・6%まで低下した。さらに26年3月期連結決算ではソフトバンクが売上高で4割強、営業利益で約3割という大差でドコモを初めて抜いた。市場の競争環境が変化し、かつてのようなドコモの支配力は薄れたといえる。

 しかし総務省は、それを理由にセット割引などの規制を撤廃できるとは考えていない。KDDIの幹部は「光サービスと携帯電話のセット割引『スマートバリュー』の効果をうたっているが、シェアの変化は2年半で2ポイントほどとあまり増えていない」と嘆く。固定回線でシェア70%を超えるNTT東西の圧倒的な強さの前では、セット割引の効果も限定的だ。

 KDDIの田中孝司社長が指摘する「シェア44%の携帯電話と70%の光サービスをセットで売ると70%に近づく」か否かは不明だが、トップシェア同士のセット割引が、市場に大きな影響を及ぼすことは想像に難くない。

 「規制の見直しは必要だが、最初に『NTTの規制緩和ありき』ではない。競争の進展が前提だ」

 同省総合基盤通信局幹部は5月初旬、NTTにとって、“アメとムチ”となる競争促進策を策定する意向を示唆した。

 着地点手探り

 4月15日に開かれた特別部会基本政策委員会。孫社長は「新幹線の切符が8枚つづりじゃないと買えないのと同じだ」と、独特の比喩でNTT東西の光回線貸出制度に問題があると指摘した。

 NTT東西は現状、光回線1本(8利用者分)単位でしか貸し出しを行っていない。1本を8分割し、1利用者分ずつ貸し出す仕組みになれば「仮想移動通信事業者(MVNO)も安いサービスを展開できる」という主張だ。

 孫社長のこうした主張は4年前にもなされた。「光の道」構想とりまとめの大詰めで、総務省は光回線1本を獲得ユーザーの数に応じて安く借りられる仕組みを検討していたからだ。

 東日本大震災の影響で、この検討は棚上げになったが、孫社長の頭には「復活」の2文字が浮かんでいるかもしれない。

 総務省の「ムチ」がNTT東西に光回線貸し出し料金の低下を促すことなのか、MVNO向けに携帯電話事業者の回線網貸し出し料金を引き下げるのか。落としどころの探り合いが水面下で本格化してきた。(芳賀由明)

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