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中東民族衣装で支持される日本製繊維 他国製品を圧倒する人気
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シキボウのトーブ地はドバイでも高い評価を得ている(シキボウ提供) サウジアラビアやドバイなど、中東諸国の男性が全身にまとう真っ白な民族衣装「カンドゥーラ」。この衣装の生地「トーブ」のほとんどが、実は日本製だということをご存じだろうか。高い品質は他国製品を圧倒する人気で、現地では日本製品のコピー商品まで流通。とりわけ、富裕層や晴れ着向けの高級トーブ市場は、大阪の繊維メーカーが独占しているのだ。
イスラム教徒が1カ月間、日の出から日没まで断食する「ラマダン」。毎年ラマダンが明けると、無事に断食を終えたことを盛大に祝う祭りの風景が見られる。
現地の人々にとってラマダン明けは“ハレの日”だ。男たちは「晴れ着」として、新調したばかりのカンドゥーラを身に着け、肩を並べる。
「1年で最もトーブが売れるのは、このラマダン明け向けなんです」。トーブを作り始めて約40年という東洋紡とシキボウの担当者は、こう口をそろえる。
現在、中東諸国で消費されている日本製のトーブは約40~45%。そのうち、高級品とされる消費量のほぼ100%が日本製というから驚きだ。
その高級品の約7割を占め、トップシェアを握るのが東洋紡。その後をシキボウや、東レ子会社の一村産業が追う。汎用(はんよう)品である韓国やインドネシア製と比べ、日本製は価格で2倍ほどもする品だが、現地の人気は不動のものだ。
もともと、トーブは綿100%で作られていたが、時代ごとに素材も変わってきた。綿にポリエステルを混ぜた綿混素材を経て、現在はポリエステル100%、レーヨンを混ぜたものなどにと様変わりしている。
ポリエステルが採用されたのはしわを嫌う現地のニーズに応えたため。伝統的な民族衣装だが、現代は洗濯してもすぐに乾くといった機能性、使いやすさも重視されている。
こうした合繊を使いつつも、柔らかな風合いを実現しているのが日本製の特徴だ。ハリを保ちながら適度なドレープ性があり、美しいシルエットを作れる。白一色ながら、国や流行によって微妙に異なる色調を出せる表現力、安定した品質を保つ技術力も圧倒的な支持を得る理由だ。
日本の着物が国内で作られ、主に国内で消費されているように、基本的にその国の文化・伝統を担う民族衣装は地産地消が一般的だ。
だが、トーブは日本製を始め、韓国やインドネシア、中国、パキスタンなど、すべてを海外からの輸入でまかなっている。
その理由は「現地の風土にある」(東洋紡)。水不足が深刻な中東諸国では、生産に水が不可欠な繊維業は、物理的に難しいのだという。そのため、トーブに限らず、女性用の民族衣装に使われている「アバヤ」なども輸入に頼っている。
日本企業がこれほどトーブ市場に食い込めた明確な理由は不明だが、石油取引などで結びつきを強めてきた歴史や、日本人の正直さや勤勉さがビジネスパートナーとして信頼を得られたことも、大きな理由とみられている。
糸の開発から生地加工まで一貫して国内生産を貫く東洋紡は、長短繊維を1本の糸に混ぜるなどした複合繊維を武器に品ぞろえを強化。一方、高級品シェア2位のシキボウは、約20年のロングセラー「セルグリーン」でクウェートやカタールなど周辺国の開拓も進めている。
中東諸国で繰り広げられる日本企業同士の激烈な競争。一方、現地では日本ブランドの人気ぶりに、韓国など他国企業の日本製コピー品も出回っているという。
「“●●BO”は、中東諸国でブランドの証みたいなもの」と話すのは、シキボウの平田修・輸出衣料課長だ。
現地では「TOYOBO」ならぬ「TOBOYO」、「Shikibo」ならぬ「Shekibo」などと印字された商品が横行。シキボウの商標である人魚マークも、そっくりそのままコピーされたものもあるとか。ただ、「品質を確かめれば一目瞭然。現地では本物とコピー品が混同されることはない」そうだ。(田村慶子)