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優等生・帝人の目算なぜ外れた 苦境に立つ「繊維の名門」
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帝人の売上高と営業利益の目標 繊維の名門、帝人が苦境に立たされている。成長を見込んでいた高機能繊維など素材事業の採算が軒並み悪化し、2012年度の連結最終損益は赤字に転落。「脱繊維」を合言葉としたライバル各社の経営多角化戦略が明暗を分ける中、帝人は炭素繊維や医薬品などをてこに堅実な経営を続け、東レに次ぐ国内2位の地位を築いた優等生。目算が外れた背景には何があったのか。
「すべて(の事業)が悪い。こういった状態は過去にあまりなかった」。今月9日、都内で13年3月期の決算説明会に臨んだ園部芳久・最高財務責任者(CFO)は、事業分野ごとに業績を振り返り、苦渋の表情を浮かべた。
売上高は前期比12.7%減の7457億円、営業利益は同63.7%減の123億円。防弾チョッキなどに使われるアラミド繊維や、機械部品などに使われるポリカーボネート樹脂など素材分野の採算悪化が響き、期中に業績予想の下方修正は4度に及んだ。期初に220億円の黒字を予想していた最終損益も291億円の赤字となり、悪化幅は500億円を上回った。
帝人は昨年2月、12~16年度に取り組む中期経営計画と、20年頃を見据えた長期的展望を抱き合わせた「中長期経営ビジョン」を発表。アラミド繊維や炭素繊維複合材料などを「成長ドライバー」と位置づけ、年平均1000億円の“成長投資”と、製造効率の向上などによる400億円超(11年度比)のコスト削減で、16年度に売上高を1兆3000億円、営業利益を1000億円とする目標を掲げた。
この計画は発表時から「見通しが甘い」(アナリスト)と指摘されていたが、初年度にあたる13年3月期の実績が期初予想を大きく下回ったことで、それが的中した格好となった。同社は16年度の収益目標を修正し、6月末までに公表する予定だ。
誤算だったのは、成長エンジンの一つであるアラミド繊維の需要低迷だ。主力の防弾・防護用途が米国の財政再建に伴う防衛費削減で減少し、欧米の自動車関連向けも昨年度後半から調整局面に入った。「計画上は先進国向けだけでキャパシティー(生産能力)がいっぱいになるはずだった」(園部CFO)が、このシナリオが崩壊した。
アラミド繊維は高機能繊維の代表格で、米化学大手デュポンとシェア争いを繰り広げてきた帝人にとって看板ともいえる素材の一つ。同社は採算改善のため、オランダの生産拠点で10%の人員削減に向けた希望退職者の募集を開始。中国・上海の用途開発拠点を活用して新興国でも拡販を図り、欧米に偏っていた収益源を分散する方針だ。
みずほ証券の佐藤和佳子シニアアナリストは「素材事業は、少しでも景気に左右されにくい収益構造の構築が重要。そのためには川下産業との連携を加速させる必要がある」と強調する。
素材メーカーは技術力や開発力はあるものの、消費者との距離が遠く、ニーズをつかみにくい。消費者に近い川下産業と組んでニーズに合った素材を開発し、付加価値の高い製品が確実に売れる仕組みを作れば、利益率の向上や安定的な収益源の確保につながるからだ。
帝人は昨年8月、家具チェーン大手ニトリとの共同開発事業を立ち上げ、12月には高機能素材の開発や商品の企画・提案などを担う専門組織「ニトリプロジェクトチーム」を新設。丈夫で軽い合成皮革を使ったランドセルや、着火しても燃え広がりにくいこたつ布団などを展開してきた。今後も両社で年間2~3商品を新たに開発し、順次市場に投入していく計画だ。
米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)と取り組んでいる炭素繊維複合材料を使った自動車部材の共同開発も期待が大きい。炭素繊維は車体の軽量化に役立つ素材として市販車にも採用が広がったが、部材の製造にコストと手間がかかるため一部の高級車にとどまっているのが現状だ。
そこで帝人は世界最速の1分で部材を連続成型する技術を開発。量産車への採用に道筋を付けた。現在は「量産化プロセス確立に向けた検証が最終段階に入った」(同社)という。
日本の繊維産業は石油危機や輸入品急増などの中で生き残りをかけた多角化を進め、帝人のように繊維を基幹事業に据えるメーカーは少なくなった。それだけに、帝人の高機能繊維事業立て直しに向けた取り組みは業界内でも関心を集めている。(豊田真由美)