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【底流】帝人にもリストラの風 名門繊維会社に何があったのか

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【底流】帝人にもリストラの風 名門繊維会社に何があったのか

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ベトナムにある帝人の縫製工場  繊維の名門、帝人が苦境に立たされている。高機能繊維をはじめとする素材事業の採算が軒並み悪化し、平成25年3月期の連結最終損益は赤字に転落。同社はコスト構造の改善に向け、主力の炭素繊維、アラミド繊維事業の生産設備と人員のリストラに着手した。「脱繊維」を合言葉とした合繊各社の経営多角化戦略が進む中、帝人は堅実な経営で東レに次ぐ国内業界2位の地位を築いた優等生。目算が外れた背景には何があったのか。

 効率向上へ再編

 リストラの一つは、米テネシー州の炭素繊維工場で一部生産ラインを停止することだ。9月をめどに全3ラインのうち2ラインを止め、従業員の約半数にあたる65人程度を削減する。

 同工場では、プラスチックの補強などに使われる一般産業向けの製品を生産。年産能力は2400トンで、同社の炭素繊維生産量の約2割を占める。停止するのは老朽化で生産効率が落ちていた設備で、停止分の製品は日本とドイツの拠点での代替生産で対応する。これにより、全体の生産効率を高め、悪化した採算を改善するのが狙いだ。

 生産縮小は、需要拡大が見込まれる自動車向けの供給に注力するためでもある。帝人は米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)と共同で、鉄より軽い炭素繊維複合材料を使った量産車向け部材を開発中。数年中には米国内に工場を新設しGM向けに生産を拡大する方針で、同国内の炭素繊維事業を再編する。

 また、オランダのアラミド繊維生産拠点では、10%の人員削減が来年度中にほぼ終了する見通し。市場の高成長を見込み強化していたが、予測が外れたことで過剰になっていた。最も多かった22年頃に比べ約300人少なくなるという。

 誤算はアラミド繊維

 「まずは営業損益を黒字化しなければならない。コスト削減でスリムな体質にする」

 今年度から高機能繊維・複合材料事業グループ長を務める帝人の鈴木純常務執行役員は、事業の立て直しに強い決意をにじませる。

 帝人は25年3月期に通期の業績予想を4度も下方修正し、期初は「220億円の黒字」の見通しだった最終損益が「291億円の赤字」に転落した。

 誤算だったのは、高機能繊維の代表格で、防弾チョッキなどに使われるアラミド繊維の需要低迷だ。米国の財政再建に伴う防衛費削減で、防弾・防護用途が減った。欧米の自動車関連用途が年度後半から減退したことも追い打ちを掛けた。

 後発メーカーとの競争が激化している炭素繊維も、スポーツ用品向けなどで価格が低下している上、天然ガスなどの圧力容器と航空機以外の用途では需要が軟調だった。

 帝人は24~28年度の中期経営計画と、32年ごろを見据えた長期的展望を抱き合わせた「中長期経営ビジョン」で、アラミド繊維や炭素繊維複合材料などを成長ドライバーと位置づけ、28年度の売上高を1兆3千億円、営業利益を1千億円とする目標を掲げていた。

 年平均1千億円の“成長投資”と、製造効率の向上などによる400億円超(23年度比)のコスト削減も盛り込んだが、鈴木氏は「目標が強気だった」と自戒を込める。同社は業績不振を受け、28年度の収益目標を6月末までに修正し、公表する予定だ。

 「川下」との連携

 みずほ証券の佐藤和佳子シニアアナリストは「素材事業は少しでも景気に左右されないよう、消費者に近い川下産業との連携を加速させる必要がある」と強調する。

 素材メーカーは技術力や開発力はあるものの、消費者との距離が遠くニーズをつかみにくい。川下産業と組んで付加価値の高い素材を開発し、ニーズに合った製品に確実に採用される仕組みを作れば、利益率の向上や安定的な収益源の確保につながる。

 帝人はGM以外の川下産業とも連携を進めている。昨年は家具チェーン大手ニトリとの共同開発事業を立ち上げ、専門組織「ニトリプロジェクトチーム」を新設。着火しても燃え広がりにくいこたつ布団や、節電効果のある遮熱レースカーテンなどを手がけてきた。今後も両社で年間2~3商品を開発し、順次市場に投入する計画だ。

 日本の繊維産業は経営の多角化が進み、帝人のように繊維を基幹事業とするメーカーは少数派となった。それだけに“名門復活”の行方を左右する同社の立て直し策は業界の注目を集めそうだ。

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