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【底流】ソニー復活に挑む平井社長 スマホ、4K…真価問われる1年に
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ソニーが6月に発売する4K対応の液晶テレビ トランジスタラジオや平面ブラウン管テレビ、携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」…。数多くのヒット商品を世に送り出したソニーの復活に向け、平井一夫社長が就任してから4月で1年が経過した。ここ数年はライバルの米アップル、韓国サムスン電子とは対照的にヒット商品が不在。ソニーはかつての輝きを取り戻せるか。
「“ワオ!”と言ってもらえるサービスだ」。15日に都内で開かれた子会社ソネットエンタテインメントの新しい光回線サービスの発表会見。当初予定になかった平井社長が飛び入りで参加し、新サービスをPRして報道陣を驚かせた。
平井社長は、米国本社や東京都品川区のオフィスビルなどの資産を売却する一方、積極的な投資で新たな成長に向けた布石を打っている。
ソニーは今年1月、株式公開買い付け(TOB)で、ソネットを完全子会社化。インターネット接続サービスと、ソニーが持つデジタル機器やコンテンツサービスの相乗効果を目指す。
昨年6月には、米ゲーム会社を約300億円で買収した。オリンパスには今年2月までに合計500億円を出資。医療機器分野の強化を目指し、今月16日には外科手術用内視鏡の開発などを手掛ける共同出資会社をオリンパスと設立した。平井社長は「新会社に最先端の映像技術や人材、資産を投入する」と意気込む。
業績不振で深刻なのは、ソニーらしいヒット商品が生まれていないことだ。「最後のヒット商品」と呼ばれる家庭用ゲーム機プレイステーションの発売は18年以上も前に遡(さかのぼ)らなければならない。
危機感を強めた平井社長は、ヒットが生まれない理由の一つを縦割り組織にあるとみて、部門の垣根を越えて連携するための策を相次ぎ打ち出す。
「危機的状況のなか、どう復活させるのか。考えてほしい」。社長就任から1カ月がたった昨年5月、ブラジル・サンパウロ。平井社長は販売会社の従業員数百人を前にこう訴えた。
平井社長はこの1年間、国内外の事業所や営業所を自ら回り、社員一人一人と対話を重ねてきた。訪問先は欧米やアジア、中南米など20カ所以上に及んだ。「グループ16万人の社員に自分の考えが浸透してきた」(平井社長)と手応えを感じている。
部門間の連携も進みつつある。NTTドコモの加藤薫社長は1月の新製品発表会で、ソニー製のスマートフォン(高機能携帯電話)「エクスペリアZ」を「イチオシの商品だ」とコメントした。通信会社のトップが特定会社の一製品を推奨するのは珍しい。「Z」は2月9日の発売以来、6週連続で国内の携帯電話販売台数でトップを記録した。
人気の理由の一つは、部門連携で生まれた高性能なカメラ機能だ。デジタルカメラ部門が、スマホの企画段階から参画し、画像センサーの設計を最適化するなどしてデジカメに引けを取らない高画質を実現した。
平井社長はスマホ中心の「携帯機器」、デジカメなどの「映像機器」、そして「ゲーム機」の3部門を重点分野に据える。一方、赤字が続くテレビ事業の“止血”は喫緊の課題だ。
4月11日、画像の高精細さが売りの「4K」液晶テレビの新製品発表会見。テレビを担当する今村昌志業務執行役員は、新商品を武器に「今年度の黒字化に自信がある」と強調した。
5月9日に発表する25年3月期の連結決算では、最終損益は200億円の黒字となる見込み。実に5年ぶりの黒字化だ。堅調な金融や音楽、映画部門が収益を下支えする構図だ。
ただ、かつては稼ぎ頭だったテレビ事業は、25年3月期まで9年連続で赤字が続く。26年3月期は高画質や大画面などで商品力を高め、反転攻勢に出る。
社長経験者の中鉢良治副会長は3月末で退任。ハワード・ストリンガー取締役会議長も6月に開く株主総会で退任する意向だ。SMBC日興証券の白石幸毅シニアアナリストは「ストリンガー、中鉢両氏の退任で、平井社長が完全に経営を握る態勢が整う。その分、26年3月期は結果が求められる」と指摘する。ソニー復活に向け、平井社長の真価が問われる1年になる。(大柳聡庸)