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【底流】LCC就航1年で見えた課題 顧客満足度とコストとの戦い
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成田空港に今年夏、相次ぎ就航した国内系格安航空会社(LCC)のジェットスター・ジャパン、エアアジア・ジャパンの旅客機 日本の国内線に格安航空会社(LCC)が就航して1年が過ぎた。大手の半額以下という低運賃で気軽に旅を楽しめ、今のところ航空機を初めて利用する乗客など新たな需要を獲得している。ただ、サービスの簡素化でコストを下げるビジネスモデルの課題も露呈。日本の空に定着できるか、正念場を迎えている。
今月1日、全日本空輸などが出資したLCCのピーチ・アビエーションが主要拠点の関西空港で行った就航1周年の記念セレモニー。井上慎一最高経営責任者(CEO)は、搭乗客をハイタッチで送り出した後、「新しいビジネスモデルを確立できた。従来の航空会社にないお客さまに乗っていただいている」とあいさつした。
LCCが最も注目するのが、利用客数を提供座席数で割った搭乗率だ。ピーチは70%で利益が出せるとされるが、2月の搭乗率は80%超と好調だ。
LCCのビジネスモデルは、インターネットでのチケット販売や機内食の有料化など徹底したサービスの簡素化でコストを下げ、運賃を安くするのが特徴だ。
ただ、それだけでは客に飽きられてしまう。ピーチは、客室乗務員が関西弁で接客するほか、飛行機の塗装やユニホームに「桃」をイメージしたピンク色を採用するなど、親しみやすさを訴える戦略を展開した。
ピーチの主な顧客は20~30代の女性で、利用客全体の3分の1を占める。若い女性が浴衣姿で博多に移動したり、日帰りでソウルとの間を往復したりするなど空の旅が変わりつつある。
国内LCC3社のうち、日本航空系のジェットスターは豪州、全日空系のエアアジア・ジャパンはマレーシアが運営母体。それぞれ海外で成功したビジネスモデルを日本に持ち込み、「観光を通じて経済活性化に貢献できる」(ジェットスターの鈴木みゆき社長)と期待する。
ただ、格安の「代償」としての不便さが、LCCの普及を妨げている。
「LCCは欠航が多い」というイメージが浸透し、時間に厳しい利用客から敬遠されていることもその一つだ。
成田空港を拠点とするジェットスターとエアアジアは、騒音上の問題から離着陸を午後11時までに制限した“門限”により、最終便が欠航となるケースが続出。国土交通省によると、昨年10~12月の欠航率は、エアアジアが1・53%、ジェットスターが1・34%で、大手9社の平均(0・90%)を上回った。
ピーチは欠航は少ないが、予定時間を15分以上超えた便の割合を示す遅延率は25%強で、6%弱の日本航空とは雲泥の差だ。
こうしたトラブルもあり、エアアジアは昨年10月から4カ月連続で搭乗率が6割を下回った。ジェットスターは昨年12月以降、搭乗率を公表していない。
ただ、千葉県成田市は今月19日、成田空港の離着陸時間について、悪天候などやむを得ない場合に限り午前0時までの延長を容認すると決め、今後は利便性が改善されそうだ。
しかし、ジェットスターは今月13日、航空機部品を輸入した際の添付書類に記載ミスがあったとして、1機の運航を取りやめた。国交省によると、部品の書類ミスで欠航するケースは珍しいといい、LCCの弱みは容易に解消されそうにない。
欠航などに対する利用客への対応は、各社で分かれている。ジェットスターは欠航などの場合、乗客の宿泊費などを負担。エアアジアは「(航空機が)遅れても代替交通手段の手配はせず、ホテル代や交通費も出さないと約款に書いてある」(小田切義憲CEO)とする。
ウェブサイトでの予約が使いづらい、という声もある。「不満をぶつけたくても(LCCの)コールセンターにつながらない!」。国民生活センターの担当者は、怒りに満ちた利用客の苦情を何度か受けたという。
日本の大手航空会社の手厚いサービスになれている利用客からの不満が高まれば、顧客離れにつながりかねない。
エアアジアは、3月末に予定する中部空港への進出に合わせ、2月にマレーシアだけにあったコールセンターを千葉県にも開設。自社のウェブサイトの改善や、1月から旅行代理店を通じたチケット販売にも乗り出した。
顧客満足度を高めようとすれば、コスト増を覚悟しなければならない。日本流のビジネスモデルを構築するまでにはもう少し時間がかかりそうだ。(井田通人)