SankeiBiz for mobile

【底流】資生堂、過去の栄光と決別 人材不足…会長再登板で再出発

ニュースカテゴリ:企業のメーカー

【底流】資生堂、過去の栄光と決別 人材不足…会長再登板で再出発

更新

資生堂社長交代会見。会見後握手を交わす、社長を兼務する前田新造会長(右)と体調不良で社長を退任し相談役に就任する末川久幸社長(左)  資生堂の末川久幸前社長(54)の体調不良を理由とした退任を受け、4月から社長を兼務している前田新造会長(66)は、自らが作り上げた仕組みも含む“負の遺産”の解体に挑む。

 同社は国内化粧品事業が低迷しているうえ、2桁成長が続いていた中国事業が昨秋の日中関係悪化の影響で失速。大物会長の「緊急避難的」(前田氏)な再登板で、経営陣の人材不足も露呈した。前田氏は新たな成長戦略の構築と後継者の早期育成を迫られている。

 自己否定も辞さず

 「私に課せられた最大の任務は、再び成長軌道を取り戻す道筋を付けること。そのためには、過去、私自身が決めたことを否定することもいとわず、思い切った手立てを講じていくなど、大変厳しい改革が必要になるかもしれない」

 3月11日、東京・東新橋の資生堂汐留オフィス。末川氏とともにトップ交代会見に臨んだ前田氏は、経営立て直しに向けての強い決意をにじませた。

 平成23年3月までの約6年間社長を務めた前田氏は、主要ブランドへの集中投資で各分野のトップシェア獲得を目指す「メガブランド戦略」を成功させたことで知られる。

 ヘアケアの「TSUBAKI(ツバキ)」、メーキャップの「マキアージュ」といった新ブランドをヒットさせ、資生堂のブランド力に一層の磨きをかけた立役者であり、その手腕に一目置く業界関係者は多い。

 海外戦略でも攻めの経営を貫いた。中国では、高級志向のデパートから庶民向けの薬局まで販売網を拡大。米国では、同国の化粧品会社ベアエッセンシャルを約19億ドル(当時の為替レートで約1600億円)で買収するなど、グローバル経営の基礎を築いた。

 ただ、成長軌道は長くは続かなかった。「メガブランドに固執するあまり、後に細分化した消費者の嗜好に応えきれなくなった」「販売チャネルの構造変化への対応が遅れた」など、特に任期後半の経営に関しては疑問視する声も聞かれる。

 内憂外患 

 末川氏は社長時代の前田氏を参謀役として支えた若手エースで、2年前の社長就任会見でも「改革を引き継いでいく」と語った“前田路線”の継承者。海外経験はないものの国内化粧品事業に精通しており、51歳(当時)の若さで後任に抜擢された。

 だが、就任の前月に東日本大震災が発生し、国内の消費マインドは低下。昨秋には、尖閣諸島の国有化をめぐる反日デモと日本製品の不買運動で、海外部門の牽引役だった中国事業も大きな打撃を受けた。

 国内外で建て直しを迫られた末川氏は「売上高が伸びなくても利益を確保できる筋肉質な経営体質」を目指した。昨年4月、美容部員によるカウンセリング機能付きの通販サイトを開設し、国内販売のてこ入れに着手。

 今年1月には、半世紀以上にわたりスキンケア製品などを製造してきた鎌倉工場(神奈川県)の閉鎖など大型のコスト削減策も打ち出した。ただ、中国事業の“止血”には有効な対策を講じられず、社内外に不満と不信を募らせた。

 結局、業績がピークだった19年度に4390億円に達していた国内化粧品事業の売上高は減り続け、24年度は1千億円近く少ない3480億円となる見通し。中国では「買い控えの雰囲気が依然残っており、厳しい状況は当面続く」(同社)とみられる。

 過去のしがらみ 

 資生堂の経営改革について、大和証券の広住勝朗シニアアナリストは「思い切った取捨選択と過去のしがらみを断ち切る勇気が必要」と強調する。国内最大手の資生堂は幅広い商品分野と販売網に手を伸ばす“全方位外交”を展開してきたが、成功体験にとらわれぬ選択と集中が急務だ。

 かねて指摘されてきた人件費削減への取り組みにも注目が集まりそうだ。資生堂は国内外に計約2万人の美容部員を抱えるが、前田氏が社長だった18年、「顧客志向の追求」を理由に美容部員に対する販売ノルマ制度を廃止していることなどから、「良く言えば『社員に優しい』、悪く言えば『ぬるい』会社」(業界関係者)との印象を市場に与えたと見る向きもある。

 「経営環境が大きく変化しているから、私が在任中に考えた政策なども合わなくなっているものがあるのではないか。総点検しながら抜本的な改革をする」

 そう断言した前田氏の次の一手には、以前にも増して厳しい視線が集まりそうだ。(豊田真由美)

ランキング