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【底流】欧州伝統に挑む「レクサス」 ブランド育てる“ストーリー”

ニュースカテゴリ:企業の自動車

【底流】欧州伝統に挑む「レクサス」 ブランド育てる“ストーリー”

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16日から発売したレクサスISの披露会=千葉県浦安市の浦安ヘリポート  トヨタ自動車が高級車ブランド「レクサス」の立て直しに本腰を入れる。これまで圧倒的な品質力で北米を中心に支持されているが、「歴史」「文化」を武器とするメルセデス・ベンツやBMWとの熾烈(しれつ)な競争で、優位性が薄れてきたためだ。

 伝統で確立されたブランドに対抗する「ストーリー」を持たせるべく、さまざまなイメージ戦略を手がける。「日本発のグローバル・プレミアム・ブランド」として、確固たる地位を築いていく考えだ。

 ファッション感覚

 16日午後8時、千葉県浦安市の倉庫。普段は航空機の格納庫として使われるこの場所に、流行を指南するファッション誌の編集者やファッションモデルなどを集め、同日発売のレクサス「IS」の披露会が開催された。

 高級ファッションブランドの新作発表会と見間違う会場に集まった約300人は、DJ(ディスクジョッキー)が選曲し、アレンジした音楽を聴きながらレクサスを眺めていた。

 会場にいた女性からは「レクサスって意外といいね」といった声も聞かれた。トヨタがこうした披露会を行うのは珍しいが、「長期的にブランドを育てていくための一環」(広報部)と説明する。

 トヨタは、レクサスの世界統一の広告キャンペーンを実施するなど、ブランド発信を強化している。ブランドのロゴは、年内に全世界で金色から白金色に統一する。従来の豪華さだけでなく、先進性や洗練された印象を打ち出す。

 また、カフェや催事場のある大型拠点を、東京・青山や米ニューヨーク、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイに設置する。最先端の服飾や芸術関連の催しを開いて、ブランドの個性を訴える。

 社長が歴史を作る

 新たな試みは危機感の裏返しともいえる。

 「メード・イン・ジャパン」として他社を圧倒する品質を武器に新たなプレミアムブランドとして1989年に北米で産声を上げたレクサス。

 伝統やラグジュアリー(豪華さ)に飽き足らない富裕層から支持を得て、99年から13年連続で米国高級車市場でトップシェアを確立してきた。だが、東日本大震災で供給不足となる間に、BMW、メルセデスの欧州車ブランドに抜かれ、12年には3位に転落した。

 欧州メーカーには、1800年代後半~1900年代初頭から車作りをしてきた歴史、伝統がある。さらに欧州には、F1を始めとしたレースなど自動車文化も根付いている。

 「レクサスに足りないものは歴史とストーリー」。こう痛感したトヨタは4月から、豊田章男社長がレクサス事業を直轄し、ブランドの立て直しに乗り出した。「レーサーとしての顔や、『豊田家』という創業家の顔を併せ持つ自分が事業を直轄すれば、ブランドストーリー作りに役立つ」(豊田社長)との判断からだ。

 賛否両論の試み

 これまでのトヨタは万人受けを狙い、「批判もされなければ肯定もされない」車を作り続けてきた。

 だが、高級車市場においては埋没すると判断。一目でブランドが認識できるよう、台形を2つ組み合わせた「スピンドルグリル」をレクサス全6モデルに採用し、力強さを表現した。「賛否両論だがこれこそが狙い」(トヨタの福市得雄常務役員)と説明する。トヨタの大胆な試みが、高級車のイメージを変えるかもしれない。

 三菱UFJモルガンスタンレー証券の吉田達生シニアアナリストは「レクサスが米国でシェアを落としたのは超円高も理由だった。(円安基調になり)今後は、装備品の充実など攻めに転じられる。ブランドを向上させるためにも、スピンドルグリルをぶれずに育てることも必要だ」と話す。

 豊田社長の目線の先には「台数という目先にとらわれず、五輪選手を応援するような、日本人が誇りに思うような車にしたい」との思いがある。(飯田耕司)

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