人間に対する温かな目
写真は、ベトナム戦争などの影響で、逃げる住民たちがやむなく残していったものだ。幸せだったころの生活や家族の肖像が写されていて、戦禍や政情不安で、あっけなく個々の生活が失われたことを端的に示している。
一方で帆船は、1770年にオーストラリアに流れ着いたキャプテン・クックのエンデバー号を思わせ、もともと移民の歴史からスタートしたオーストラリアが最近、難民の受け入れ拡大に否定的な姿勢でいることを批判しているようにみえる。
「原付修理します」は、街角でレが撮ったスナップ。カラフルな現代美術にもみえる無店舗営業の「看板」はいくつもあり、たくましく生きるベトナム人の生活を象徴している。レはこうしたベトナム人たちを愛しているという。レの作品を見ていて、どこか救われるのは、生きる人間に対する温かな目が感じられるからだろう。(原圭介/SANKEI EXPRESS)
【ガイド】
■「ディン・Q・レ展:明日への記憶」 10月12日まで、森美術館(東京都港区六本木6の10の1、六本木ヒルズ森タワー53階)。一般1800円。会期中無休。(電)03・5777・8600。