【アートクルーズ】
複数の写真を帯状に切ってゴザのように編み上げた作品で注目されたベトナム人アーティスト、ディン・Q・レ(1968年~)。そのアジア初の大型個展「明日への記憶」が、森美術館(東京・六本木)で開かれている。兵器と利器、殺戮(さつりく)と祈り、アメリカとベトナム…。2つのモチーフ(題材)を組み合わせた作品が目立つが、その中で一貫してレが訴えるものは、戦争や弾圧で押しつぶされてきた「個人の尊厳」を取り戻すことではないだろうか。
「トンボが低く飛ぶと雨が降る。トンボが高く飛ぶと太陽が輝く…」。女性が美しい声で歌うベトナムの子守歌が流れ、水田が広がる風景で始まる「農民とヘリコプター」。やがて3画面に映し出されるのは、ベトナム戦争で来襲する軍事用ヘリと逃げ惑う人々だ。
ヘリは機銃掃射し、ロケット弾を撃ち込む。プロペラからの下向きの風が草をなぎ倒し、草の中に隠れていた女性がむき出しになって、恐怖はピークに達する。しかし、一方では、戦争中にヘリが大好きになり、独学でヘリを作ってしまった男性も登場する。自作のヘリは、会場に展示されている。