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【野口裕之の軍事情勢】近代海軍史のレアもの 敵前逃亡艦を展示する中国の度胸 (2/5ページ)

2015.3.23 06:00

  • 豊島(ほうとう)沖

 話をスループの武蔵に戻す。2筋の煙を発見した帝國海軍は、スループの武蔵など2隻の可能性もあるとして接近した。と、ここで今次小欄の主役となる清国海軍・ドイツ製防護巡洋艦《済遠》の登場と相成る。防護巡洋艦とは、舷側に装甲がなく、機関室上部など一部に装甲を施した軽防御の巡洋艦だ。

 済遠の21センチ連装砲が突如、火を噴く(異説アリ)。豊島(ほうとう)沖海戦である。帝國海軍は応戦し、濃霧にもかかわらず、早くも数分後には済遠艦橋に命中し副長が戦死する。済遠はマストにひるがえる清国旗を降ろし、日本軍艦旗の上に白旗を掲げ“降伏”した。ところが済遠は、機関停止で恭順の意を表すことを定めた国際法を無視し、白旗+日本軍艦旗の揚げ下げを繰り返しながら逃走。その間も攻撃してきた。ただ、艦搭載の端艇を派遣し、船体確保を怠った瑕疵は日本側にもあった。結局、世界屈指の速度を誇る帝國海軍の防護巡洋艦を振り切り、僚艦を見捨てて逃げおおす。

 しかし、2カ月もたたぬ内に黄海(海戦)で会敵。戦況不利と観た済遠など2艦は戦闘にロクに貢献せぬまま敵前逃亡し、母港の一つ旅順に遁走する。制海権喪失で日本軍の補給路遮断が困難になる戦局を恐れ、艦隊温存を図ったとの分析も有るが、近代海戦史において敵前逃亡は極めて珍しい。艦長は斬首(銃殺説アリ)に処される。

「恥史」を公開する博物館

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