【京都うまいものめぐり】
「お茶を食べる」という発想から生まれた抹茶料理を供する「辰巳屋」。世界遺産・平等院鳳凰堂の東隣、宇治川のほとりにたたずむ老舗料理屋だ。茶どころ・宇治の地で1840年頃に茶問屋として創業、1913(大正2)年に料理屋となった。伝統的な京料理の随所に抹茶が使われた料理の数々は、驚きとともに“口福”をもたらした。
京都府南部に位置する宇治は風光明媚(めいび)な土地柄で平安貴族の別荘地だったという。宇治茶の栽培が始まったのは鎌倉時代とされ、今でも日本有数の茶どころだ。茶問屋からお茶を使った料理を供する料亭となって100余年の「辰巳屋」。まずは、先代が考案したという名物の「抹茶豆腐」をいただいた。
手間と厳選素材の豆腐
鮮やかな緑色の豆腐に目を奪われる。濃い豆乳とともにまろやかな抹茶の風味もしっかり感じられ、カツオと昆布でとっただしとの相性も抜群だ。
「強い甘みが特徴の北海道産の鶴の子大豆と最高級の抹茶を使って、まる3日かけて作ります」と、八代目の若主人・左聡一郎さんが説明する。大豆を一晩水に漬け、ミキサーで潰し火に掛けて漉(こ)して豆乳を作る。そこに抹茶を加え、にがりで固め、一晩冷蔵庫で冷やす。