グループ内で役割分担し、偽電話で金をだまし取る特殊詐欺の被害額は昨年、500億円を超え過去最悪を記録。警察も対策を強化しているが、逮捕されるのは、電話をかける役や現金を受け取りに現れる「受け子」止まりで、主犯格や拠点の摘発はごくわずかだ。
「犯行の全体像を知らない受け子の逮捕は“トカゲのしっぽ切り”。一網打尽にするには、容疑者同士の通話から指示系統を割り出す必要がある」(警察幹部)とされ、通信傍受導入は警察の悲願だった。
通信の秘密やプライバシー保護の観点から、通信傍受は1999年の法成立時に強い反対に遭った経緯がある。恣意的運用への懸念は法制審でも浮かんだが、高齢者の被害実態を前に、慎重論は脇に追いやられた形だ。
「対象犯罪の拡大は一定程度認めてもよい」。冤罪(えんざい)被害を受けて議論に加わった村木厚子・厚生労働事務次官は、可視化拡大を前提に見直しに賛同し、反対派の弁護士らも最終的に歩み寄った。
乱用を監視する第三者機関の設置も議論されたが「裁判所がその機能を果たしている」と退けられた。