40代ならではかも
心をほどいてくれるのは、山の景色だけではない。そこで出会う人もまた、救いだ。「山でなら、いきなり会った人からも、素直にキャラメルをもらうことができる。普段の通勤電車の中では、そんなことはできないでしょう?」
特に派手な事件が起きるわけではない。仕事をして、山に登る。歩きながら、過去のつれづれを思い起こす。読者は「わたし」と歩を同じくし、追憶の流れに身をゆだねる。「20代のようにがむしゃらでもなく…40代という年代ならではかもしれませんね。しみじみと振り返るだけの過去の蓄積がある」
ズレたところに価値観
本作もそうだが、女性を主人公にすることが多い。「女性の方が書きやすいですね。どうしても男性を主人公にすると、同じ40代でも社内の抗争だったり、上昇志向や出世の話になってしまう。自分の価値観はそういうところよりも、日常の中で一歩ズレたところにある。山もそう。日常の中でちょっとズレた時間ですよね」
恋人との別れ、親友の死。いくつもの喪失を抱えた自分の心をさぐるように、歩を進める「わたし」。「誰しも、いろんな欠落を抱えたまま生きている。それをいかに、処理し、解決するか。自分や他人に対して、『生きていていいんだ』という許しを得るか。そこにたどり着くまでの物語です」