感情が開放される
なぜ、山。「山好きの女性編集者から話を聞いたことがきっかけ。山を歩くことでいろんなことを考えるでしょう。普段、忙しい生活の中ではあまり立ち止まって考えないことを。あ、これは書けるな、と」
藤原ちゃんとともに、初めて山を訪れた「わたし」。偶然迷い込んだ涸れ沢が、悲鳴を上げていた心を救った。どこまでも続く紅葉のアーチ、ひとつひとつきらめく葉…。〈めったに、つんとはしない、させない涙腺が、何だか緩みそうになった〉。以来、一息つくたびに、いや、一息つけるために、「わたし」は山へ向かう。〈わたしは山に行くと、涙もろくなる自分を発見する。それは山が、わたしの心を開いてくれるということだろう〉
「生きていけば、いろんなことがある。身動きを取れなくなることもある。そんな中で、山に行くと、感情が開放される。人は本当は泣きたい。でも、日常生活ではなかなか泣けない。彼女は、山の中で『紅葉を見て泣ける自分』を発見できたのでしょう」