【本の話をしよう】
日本初の難手術「バチスタ手術」を成功させ、世界の一線に立つ心臓外科医・須磨久善さん(64)。著書『医者になりたい君へ』に、未来を担う子供たちへの熱いメッセージを込めた。単なる職業解説本ではなく、仕事、そして人生を乗り越えるためのヒントが詰まっている。
「神に祈る手」
日本初の手術を成功させ、数千人の命を救ってきた。NHKのドキュメント『プロジェクトX』出演の際には、「神の手」と称された。だが、「外科医の手は『神の手』ではない。むしろ『神に祈る手』だ」と言い切る。
その謙虚さは、著書の構成にも表れている。序章「はじめに」で示すのは、医師として最初に出会った死のこと。「医師は、命と直接付き合う仕事。助かる命もあれば、去っていく命もある。死の実感を持たないと、続けることはできない。亡くなった人のことを覚えている。その苦しい積み重ねがあるから、医師を続けられる。忘れてしまったら楽になれるかもしれないけど、苦しい経験の中にこそ、次の手術への教訓があるから」