【本の話をしよう】
もし、おなかの中の子供に障害があると分かったら-。出生前診断にともなう治療的中絶をテーマにしたイタリア人作家、シモーナ・スパラコさんの『誰も知らないわたしたちのこと』が刊行された。自身の体験をもとに創作された長編小説。「語ることのできないたくさんの女性たち」のために、タブーに挑んだ。
イタリア最高の文学賞・ストレーガ賞最終候補に残り、ベストセラーとなった本作。だが、カトリック教徒の多いイタリアにおいては、中絶について語ることはタブーだった。あえてそのタブーに挑んだ理由を、こう説明する。「タブーは人間社会にとって有毒。タブーをいかになくしていけるかに、社会の成熟度が試される。だからこそ、私はタブーを壊さなければいけないと思い、筆を執りました」
自身も死産を体験。「非常に厳しくつらい時期だった。鬱にもなった」。苦しい思いを抱えたまま、インターネットをさまよった。そこで励まされたのが、治療的中絶を経験した女性たちが集うサイト。作品中にも、サイトへの投稿が物語の合間に、句読点のように挟み込まれている。「タブーゆえに自らの体験を周りに打ち明けることができない女性たちがたくさんいた。彼女たちはいわば『顔のない女性』。声をあげられない声を代弁するために、私はこの物語を生み出したのです」