「アマチュアでやっている時期は、歌は自分が不可解な感情と出合った時に消化するための手段だった。今まで内に向いていた視点が“全体を巻き込んでいきたい”と、人に聴いてもらうことを前提に曲作りするようになったのは、バンドでプロになった頃ですね」
11曲11人、私の分身
大学院まで進んだ後は、市役所勤務と並行して活動していたが、ほどなく退職する。
「安定した人生を捨ててまで音楽に駆り立てたものは、一つは純粋に自分の突き詰めたいものを創っていける面白さ。もう一つは、ライブ中にお客さんの表情にとてもピュアな瞬間があるんですよ。それを見つけた時に、“人間って最高”“黒木渚に生まれて最高だわ”と思えるからかな」
アルバム「標本箱」には、11人の女性が描かれている。
「『ウェット』で歌っている狂気に満ちた女というのは絶対に私の中にいるし、両極端な『窓』に登場する初恋の清らかな少女みたいなのも私の中にいる。この11人は私のいとしい分身であることには変わりはないので、リスナーがその中の一人にでも共感してくれたら、それはその人と私の中に共通項があるということ。そこが喜びの瞬間というか、ピュアな瞬間ですね」