文字を持たない彼らは、経験と口伝えで森の知識を次世代に伝える。女性たちは生まれたばかりの子供を抱いて森に入り、子供は物心がつく前から森の植物の味を体験し、森の豊かさと恐ろしさを知る。
「川のことは小さな水路まで知っている。サンガ川の水も昔はもっときれいで飲むこともできたし、乾期に川をせき止めると大きな魚がたくさん捕れた」。森の中のこけむした倒木に腰を下ろしたモンジョンボが昔を語る。1960年の独立直後に生まれ、ハチミツやワニの肉が大好物だという。今やベテランの域に達する森歩きだ。
「森から出て村に暮らすようになった最近の若者は、川がどこに流れているのか、ゾウの道がどこに向かっているのかをよく知らない。困ったものだ。薬用植物のことを教えようとしても、森にいる時間が短くて満足にはできない」と話す。
「村暮らしの連中」
この国で20年以上にわたってゾウの密猟防止や環境に配慮した観光業の創設などに取り組んでいる国際的環境保護団体、野生生物保全協会(WCS)コンゴの西原智昭(51)は「森を知り尽くしたモンジョンボのような人はどんどんいなくなり、森の知識が失われつつある。彼らなしには保護区の管理や研究はもちろん、観光業も成り立たなくなる」と危機感を募らせる。