【世界川物語】
大地が寝静まった。風がやみ、月の光もない夜、土や草を固めた家々が闇に沈むと、庭の小さなたき火を前に、物語りが始まった。電気がない村に残る夜の習わしだ。
「白人はわれわれを『サル』と呼んで、むちで打った」。ザンビア南部リビングストン市郊外のムカリ村の長老ロバート・シヤジボラ(85)は、1964年の独立まで支配した英国人に、自分たちがどう扱われたかを娘や孫たちに聞かせる。
「だが、もっともっと昔、最初に来た白人、リビングストンは違った」。揺れる炎に合わせるように、しわがれ声が大きくなる。「聖書を持って現れ、神の道を説いた。黒人を差別しなかった」
「ムナリ」と呼ばれ
現在のザンビアとジンバブエの国境に沿って東に向かいインド洋に注ぐザンベジ川流域を探検していたデービッド・リビングストンが、この地にたどり着いたのは1855年のことだ。欧州人として初めて発見し当時の英国女王にちなみ「ビクトリア」と名付けた巨大な滝は今日、発展途上のザンビアを支える貴重な観光資源となっている。