森林地帯で狩猟や採集生活を続けてきた彼らは、成人でも平均身長が150センチ程度と小柄だ。ヤシ酒の採取は、森の中の水路などを知り尽くし、いい酒の採れるヤシの木を見分け、身軽に高い木に登ることができる彼らにしかできない。
まだ午前9時になったばかりだというのに、男たちは、酒の入ったカップを手に既にご機嫌だ。最年長で50代になる男性、ダチ・ラウエの歌声に全員が調子を合わせ、若者が丸木舟の上で巧みにダンスを始める。
彼らにとってのヤシ酒の大切さは変わらないが、その暮らしは近年、大きく変わりつつある。
20年ほど前まではほとんど衣服も着けず、森の中の小屋に暮らしていた「森の民」の多くが、今では農耕民とともに村で暮らすようになった。
ヤシ酒やキノコ、動物や魚といった森の恵みを対価にした物々交換は廃れ、今では貨幣経済が主流となった。彼らは今、ヤシ酒を売って現金収入を得る。
やりを使ってゾウを倒すこともあった伝統的な狩猟に代わり、今では銃による猟が主流だ。貧しくて銃を買えないため、農耕民から銃を借りて猟をし、獲物と引き換えにわずかな金を得る。報酬が獲物の脚一本であることも少なくない。