【世界川物語】
アフリカ第2の大河、コンゴ川。その支流の一つサンガ川を後に、4人乗りの細い丸木舟は、森の中を縦横に流れる小さな流れにこぎ入った。舟の前後にかいを手にして立つ2人の先住民の男性が声を掛け合いながら、細く入り組んだ水路を迷うことなく進む。
しばらく行くと、周囲の熱帯の森はいつしかヤシの林に姿を変えていた。浅い川の中から多数のヤシの木が高さを競い合うように立ち、その向こうから、何人もの男の明るい声が聞こえる。
川に浮かべた丸木舟に座る男たちが指さすヤシの木の上から、ノミのような道具で硬い樹皮を打ち抜く鋭い音が響く。樹上の若者は、木にうがった穴から出た樹液を容器に集め、ひもにぶら下げて川面に下ろす。
アフリカ中央部、コンゴ川流域の熱帯林の中で暮らす狩猟民。かつて彼らを呼んだ「ピグミー」という言葉は差別的だとして使われなくなった。
貨幣経済が主流に
彼らが古くから愛してきた「ヤシ酒」の、今も昔も変わらぬ採取作業を見た。ヤシ酒は、ある種のヤシの樹液が自然発酵した天然の酒で、乳酸菌飲料のように甘く、さわやかだ。