よって、認知症ドライバーの家族はあの手この手で免許証返納を促すのです。前出のMさんは言います。
「ヒヤリ・ハットの話をした奥さんも、不安からご主人に免許返納を言い続けたそうですが、『あなたの運転、横に乗っていると怖いの』という言い方をしたのがご主人のプライドを傷つけたようで、断固拒否。後で聞いたのですが、暴力沙汰もあったとか。もう戦いというか、経緯を聞いているといたたまれなかったですね」
ただ、Mさんはご主人の話も聞いたそうです。すると、「気持ちを理解できる部分もある」と。純粋な“クルマ愛”は共有できるとMさんは語るのです。
「カーマニアというほどではないのですが、クルマに乗ることがステータスととらえる世代で、いいクルマに乗るために仕事を頑張ってやってきたというんです。また、運転席が唯一ホッとできる場所だという話もされました。加えて、クルマはいつでも行きたいところへ行ける道具。取り上げられたら、その自由が奪われるというわけです。その思いはわかる。でも、ヒヤリ・ハットを多発する状態はやはりよくないですよね。最終的にはこの家族の問題は息子さんが出てきて、強引にクルマを処分して決着。その後のご主人は寂しそうで認知症が進行してしまいました」
Mさんは、そんな経験をしたせいか、知り合いのケアマネージャーが集まった時、認知症ドライバーに、どう説得したら免許返納を受け入れてもらえるか、という質問をしたといいます。