この状況を打破し、日本車が高付加価値領域で戦えるようになることは、豊田社長にとって宿願と言える。09年に社長就任して以降、連綿と「もっといいクルマをつくろうよ」というプリミティブなキャッチフレーズをずっと使い続けてきているのも、ひとえに付加価値を上げたいという思いの発露だ。製造業の経営は、製造原価に対してどれだけ高い価格で売れるモノを作るかということに尽きる。
クルマの価値を作るのは信頼性、耐久性、高機能など数値化が可能なものと、楽しさ、ファッション性、生活の変化への予感といった無形のものがある。
日本メーカーは前者については卓越した見識を持っているが、後者については手薄。料理で言えば、素材の質が高く、栄養価についても充実したものを作るのは得意だが、顧客が一口食べた瞬間、その味覚に衝撃を受けて顔が思わずほころぶような味作りで負けているようなものだ。
高付加価値商品である高級車の世界では、その味作りが商品力やブランド力を大きく左右する。レクサスがその世界を目指すことは、トヨタにとって重要なチャレンジなのだ。