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“号泣県議”が明らかにした日本の病弊 新聞も「お笑い」視点

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“号泣県議”が明らかにした日本の病弊 新聞も「お笑い」視点

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政務活動費について会見し、号泣する野々村竜太郎兵庫県議。その名は、世界に知れ渡った=2014年7月1日、兵庫県神戸市中央区の兵庫県庁(牛島要平撮影)  【メディアと社会】 渡辺武達

 サッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会で、日本代表が世界ランクの順位通りの成績で決勝トーナメント進出を果たせず、メディアの報道も本当のサッカー好き向けが中心になり落ち着いてきたと思ったら、今度は7月1日に行われた兵庫県議会の野々村竜太郎(ののむら・りゅうたろう)議員(47)による政務活動費不正流用疑惑に関する“号泣会見”一色となった。

 新聞も「お笑い」視点

 野々村氏の名は、「号泣県議」として全国にとどろき、世界でも「奇っ怪な日本の議員」として知れ渡るようになった。わずか1週間ほどの短期間で個人名を社会にこれほどまで浸透させた事例は、「広告効果論」素材として最適であり、筆者のゼミでも関連の動画を10分ほど視聴し議論を試みた。

 その際、新聞社のニュースサイトにリンクされた動画を使って議論しようとしたのだが、20人ほどの学生がみな、テレビで繰り返し流された「号泣シーン」になる前の弁明の段階から笑い転げてしまい、議論にならず、野々村氏の「一流のコメディアン」以上の才能が示された。

 学生たちは、この問題を日本の深刻な政治的病弊とはとらえず、支離滅裂の弁明と号泣を“お笑い”ととらえたわけだが、活字媒体の新聞各紙も、サイトに動画をリンクした事実からも、学生と同じ視点でこの問題を捉えたといえる。

 報道によれば、野々村氏は県会議員としての政務活動に使える費用について、昨年度だけで195回の日帰りの出張費を請求。大雨で特急列車が運休し日帰りが困難な日についても請求していた。また、通常は郵便局で別納扱いする大量郵送物も、切手を自ら購入し投函(とうかん)したとして、切手代を請求した。

 こうしたことが3年も続けられていたことが発覚。記者クラブから追及され、会見したわけだが、その弁明が3時間にも及んだにもかかわらず、中身といえば、「少子高齢化を防ぐための政務活動と活動内容報告の折り合いをつけてもらいたい…」などとまったく関係のないことを繰り返し、突然号泣するという、どうにも理解しがたいものであった。

 誰が見てもばかばかしい会見で、カラ出張疑惑をますます濃厚にするものであった。もし、カラ出張であれば、議員資格剥奪になっても当然だが、今回のケースが、かねてから不透明さが指摘されてきた地方議会の政務活動費の清廉化のきっかけになれば、けがの功名でもある。

 だが、問題をこの程度の顛末(てんまつ)で終わらせてはいけない。確かに、この号泣議員はとんでもない人物のようだが、そうしたレベルの議員を選んでいる有権者のレベルも同時に問われるからである。さらには、そうしたレベルの議員が、今日の選挙のやり方では当選してしまうという日本社会の構造が問題になってくる。

 加えて、日本の内閣には官房機密費というものがあり、かつて官房長官や自民党幹事長を務めた野中広務(ひろむ)氏(88)がテレビや講演で公言しているように、その額が年に100億円以上あり、今も存在している。それは現金で保管され、民主党政権時代も含めて、歴代首相と官房長官が好きなように使える。より具体的には内密の調査や謝礼などに使われたりしている。だが、内実は、野党も含めた国会議員の海外「出張」の餞別(せんべつ)や、何かのお祝い事などにも使われ、政治的な「お手盛り」と「なれ合い」で消費されてきた。

 メディア報道論からいえば、今回の県議のケースは「社会部」的な事件であり、一方の内閣官房秘密費は政治部の扱いという違いがある。

 社会部は現場感覚で事件をとらえるが、政治部は有力政治家と仲良くして、「より大きな」政治動向をつかむという取材法を取る。報道メディアの姿勢に整合性がとれていないことが、社会の浄化の妨げになっているといえる。(同志社大学社会学部教授 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS

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