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共有知で「世界ぜんたいの幸福」を 渡辺武達

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共有知で「世界ぜんたいの幸福」を 渡辺武達

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沖縄県石垣市に停泊している海上保安庁の「いしがき」=2014年3月23日(渡辺武達さん提供)  【メディアと社会】

 オランダ・ハーグでの核安全保障サミットに合わせ、米国の仲介による日米韓首脳会談が日本時間3月26日未明、行われる。韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領と安倍晋三首相にとって初めての直接的な出会いの場であり、東アジアの安定にとって喜ばしいことだ。

 一方で、サミットに合わせて行われた先進7カ国(G7)首脳会議では、ロシアの主要国(G8)会合への参加停止と、ソチで予定されていた主要国(G8)首脳会議のボイコットも決定された。もちろん、その理由は、ロシアによるクリミアの併合への制裁である。もっとも、実際の国際政治の世界では、「公式」会議で何が話されたかということよりも、首脳が直接話し合える関係にあることが重要なのであり、細かいことは事務当局の折衝によって決められていく。

 折しも、日本国内では「集団的自衛権の行使容認」をめぐる議論が高まっている。その背景には、(1)米国だけでは世界の物理的秩序が維持できる保障がなくなっている現実(2)日本と中国、韓国との厳しい領土問題(3)原油や天然ガスの安全な輸送ルート確保などのエネルギー安全保障への対応-などがある。だが、紛争を力によって解決できると考えることは、国民の犠牲を必要以上に増やす結果となり、愚の骨頂である。

 しかも日中韓の対立の根本には、過去の日本の軍事行動に関わる歴史的評価の違いがある。だから、根本的な解決には力の均衡に加えて、関係者が知識や情報を共有する「共有知」という考え方が肝要になる。

 舞鶴と石垣

 職場の春休みを利用して、この1週間、竹島(韓国では「独島」)周辺を日本側から警備する海上自衛隊の舞鶴基地(京都府舞鶴市)と、尖閣諸島(中国では「釣魚諸島」)がある沖縄県石垣市を訪れ、現地事情を知ることに務めた。

 舞鶴は終戦後のシベリア抑留者や中国・朝鮮半島からの引き揚げ者の帰還港として知られるが、この10年間に人口が半分以下になり、商店街はシャッター通りとなっていた。地元に大学がないこともあり、昼間に町を歩く若者もほとんど見かけなかった。必然的に海自関連が地元経済に占める部分が大きくなる。目の前の海には新鋭のイージス艦や大型の攻撃型艦船が停泊していた。

 基地では特別にミュージアムなども案内され、かつて大ヒットした歌謡曲「岩壁の母」(1954年、テイチク発売)に歌われた母親が帰還船が到着するたびに6年以上も息子を迎えに出て、会えぬままに死去したというその「息子」は、上海で結婚し医者になっていたという、関係者には「知られた」エピソードを紹介された。そして、何よりも海自の退院たちが、真摯(しんし)に国防を担っている現場の一端を知ることができた。

 石垣では、中国漁船との衝突で一躍有名になった海上保安庁の警備艇が3隻係留されていた。乗員らが整備などを行っていたが、気楽に話にも応じてくれた。

 石垣市では、先に行われた市長選で、自民・公明の与党が押す候補者が勝ち、与党候補が敗れ、基地移設反対派の候補が勝った沖縄本島の名護市長選とは、逆の結果になった。石垣には米軍基地がなく、市長選でも基地問題は争点にならなかった。尖閣諸島がどこにあるかを地図上で正確に示せる人も少ないという。

 八重山防衛協会の三木巌会長は、石垣市を中心とした八重山地区で、地元住民への防衛問題に関する啓発活動に取り組んでいる。石垣ケーブルTVの保田伸幸社長と報道担当の満田昌男ディレクターとも懇談したが、観光産業や漁業者を除けば、農家が多い地元では、米軍基地問題にも、尖閣問題にもあまり関心はないということだった。

 つまり、基地移設問題も関心が高いのは本島や名護市だけであり、東京電力福島第1原発事故への関心が福島以外では薄くなりつつある現実が重なる。「共有知」の欠如の表われといえる。

 東北の貧しい農村(現・岩手県花巻市)で生まれた宮沢賢治(1896~1933年)は、30歳のとき、「世界ぜんたいが幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」(『農民芸術概論綱要』序論)と書いた。

 国家間の貧富の格差が大きいうちは、テロや紛争、戦争がなくならないことの裏返しでもある。メディアは根底のところで、こうした視点での報道が求められており、「共有知」に貢献することこそがメディアの大切な使命の一つであると考える。(同志社大学社会学部教授 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS

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