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広告表現の法則を使った「明日ママ」 渡辺武達

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広告表現の法則を使った「明日ママ」 渡辺武達

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 【メディアと社会】

 日本テレビ系で今月(1月)15日からスタートしたドラマ「明日、ママがいない」について、全国児童養護施設協議会(藤野興一会長)と全国里親会(星野崇会長)が第2回放映前日の21日に東京都内で記者会見し、当該ドラマは児童養護施設や里親の元で暮らす子供を傷つけるものだとして内容の改善を求めた。

 報道によれば、藤野会長は「施設の子供が小学校で『お前が主人公か』などと言われたという報告もある」と述べ、星野会長は「差別的な表現が多く、見直してほしい」と訴えた。協議会と里親会は15日の放送開始前から日本テレビに表現の配慮を求め、協議会は放送後に抗議文も送付したという。

 録画で点検すると、初回の冒頭で告知された番組提供企業のうち3社の名前が2回目には消え、CMもACジャパン(旧・公共広告機構)などの広告に差し替えられた。スポンサーとしては、社会的な影響やイメージに配慮したとみられるが、テレビ番組をめぐる議論が起き、報道されることは、番組の質的向上という点で、歓迎すべきことだ。今回はこの番組を素材に、私たちにとってテレビとはどういうものかを考えてみたい。

 『家なき子』そっくり

 民放のテレビ番組に影響を与える利害関係者としては大別して、(1)制作者(放送局の経営者や企画・製作担当者)(2)スポンサー(広告会社と提供企業)(3)視聴者(制作者とスポンサーが想定した市場)(4)放送局に事業免許を与える政府(総務省)-がある。

 番組の素材とされる人たちへの考慮は実は希薄なのが実情だ。(1)~(3)にとってメリットがあれば、放映される。その後、何らかの問題が生じた場合にだけ、放送界の自主監理組織「放送倫理・番組向上機構」(BPO)で審議されたり、総務省が乗り出したりしてくる。

 今回のドラマでは、養護施設の子供たちが、自分たちを見捨てた親や養護施設を強烈に批判し、その言い方が物知り顔の大人顔負けの辛辣(しんらつ)さである。施設の管理人も非情に描かれている。たとえば、管理人は「お前たちはペットショップのイヌのようにカワイイものから売れるからそのようにふるまえ!」と言い、食事の前に、同情を得るための泣き方から笑い方まで教え、できないと食事を与えないというシーンさえ出てくる。

 赤ちゃんポストに預けられ、「ポスト」というあだ名が付けられた主人公の女の子は、管理人に言われるまま、それを見事に演じる。そして、子供たちだけになるとその管理人をバカにする。親についても、愛人との生活のほうが大事だと、実の娘を引き取らない母親ら、実社会にもいるかもしれないが、非情さがことさら強調されて、描かれている。

 筆者は2回の放送を視て、その作り方がかつて、貧しい家庭に生まれた女の子が「同情するなら金をくれ!」と言い、それが流行語にもなった『家なき子』シリーズ(1994、95年放映、安達祐実主演)とそっくりだと思った。そういえば、放送局も同じである。いずれもショッキングな子供の言動で視聴者の注目を集める演出だ。

 広告表現のなかで、人目を引きつけ、注目させる視覚的効果のことを「アイ・キャッチャー」という。

 効果を高めるために活用されているのが、「3Bの法則」((1)Beauty=ビューティー、美人(2)Baby=ベイビー、子供や赤ちゃん(3)Beast=ビースト、動物)だ。「AIDMAの原則」(Attention=注目、Interest=興味、Desire=欲求、Memory=記憶、Action=行動)というものもある。今回のドラマは、番組全体に広告表現の原理が使われている。

 「ドラマを真実として信じるほど視聴者はバカではない」「気に入らなけれれば、テレビを消すか、チャンネルを変えればいい」といった意見もある。ただ、テレビはスイッチをオンにすれば誰の目にも飛び込んでくる。そうしたテレビ番組の表現は、圧倒的多数が社会倫理的に肯定できるものでなければならない。(同志社大学社会学部教授 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS

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