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入念に準備すれば本番で自分らしさが デイヴィッド・ギャレットさんインタビュー
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5億円のストラディバリウスで生演奏を披露したデイヴィッド・ギャレット=2014年6月12日、東京都千代田区永田町(大山実撮影) □映画「パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト」
誰もが羨(うらや)む、いわゆる「リア充」の筆頭格だろう。甘いマスクで世界中の女性ファンをとりこにしてきた天才バイオリニスト、デイヴィッド・ギャレット(33)の公私にわたる充実ぶりには舌を巻いた。情操教育を徹底させたドイツ人弁護士の父と、米国人プリマバレリーナの母の方針で、ギャレットはすでに4歳のときにバイオリンを手にし、10歳でハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団と共演、その他諸々の華麗なる経歴に、今度は映画俳優としてのキャリアも加えた。
作品は、やはり天才バイオリニストとうたわれたイタリアのニコロ・パガニーニ(1782~1840年)のスキャンダラスな人生の軌跡を追ったドイツ映画「パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト」(バーナード・ローズ監督)。もともと映画作りに関心があり、6年ほど前に本作の映画化に動いたというギャレットは、製作総指揮、音楽、主演を担当した。演じることへの不安はみじんもなく、むしろ早く演じたくてワクワクしたそうだ。「こんな面白い人生を送ったバイオリニストはほかにいないでしょう。彼は後世の音楽家に多大な影響を与えたメンタリストでもあります。僕はずっと注目していました」
1830年、パガニーニ(ギャレット)はキャリアの絶頂にいた。ところが私生活といえば、不道徳きわまりないもので、毎晩のように女、酒、ギャンブルにのめり込み、マネジャーを買って出た謎の男、ウルバーニ(ジャレッド・ハリス)の手腕でどうにか、興行に穴をあけずにいた。そんなある日、まだ名声を手にしていない英国へ乗り込み、歌手を目指す娘、シャーロット(アンドレア・デック)と出会い、本当の愛を知る。だが、パガニーニが自分の手を離れることを恐れたウルバーニは…。
演技と演奏という表現行為の間に「それほど違いはない」と感じた。ギャレットは演奏行為の面白さについて、「ステージで演奏者たちは、楽譜に基づいて曲を表現しています。入念にリハーサルを繰り返して本番に臨みますが、実はしっかりと準備すれば、演奏中の瞬間、瞬間に自分らしさを自由に解き放つことができるようになるのも事実なのです。だからこそわれわれは徹底的に練習を繰り返すのです」と指摘した。演技の妙も同じ理屈らしい。
「楽譜と同様、演技にはあらかたせりふがあります。耳と心をオープンにして取り組むと、せりふは同じなのに、撮影ごとに、まるで違ったせりふに聞こえてくるんです。実際、ジャレッド・ハリスが私に返したせりふは、何度同じシーンを撮影しても、微妙に違ったものとなっていました」
作中、パガニーニの原曲をどう料理しようとしたのだろう。「僕は彼が残したバイオリンのパートに何も手を付けませんでした。100%オリジナルなものこそが完璧なものだと考えたからです」。ギャレットが変えたのは編曲だ。「完璧なバイオリンパートに見合うぐらい素晴らしいものを再現したかった。もちろん当時の楽器も活用してね」。歴史をひもとくと、パガニーニは出費を抑えるために常に最高の編曲をしていたわけではなかったことも見て取れた。ギャレットは「パガニーニに潤沢な金があったら、こんな編曲をしただろうということを考えながら、音楽の仕事にあたりました」と振り返った。
真剣に音楽を追究していこうと思ったのは、意外にもニューヨークのジュリアード音楽院に通っていた19歳のときと遅い。それまでは「音楽は好きかと問われれば好きと答えていました」という程度のものだった。音楽院で出会った恩師や同窓生からさまざまな刺激を受け、卒業後に目指すべき一筋の道ができたという。それは、どこか重たく敬遠されがちなクラシックを世界の若者たちに紹介し楽しんでもらうこと。「クラシックをポップミュージック、ロック、R&Bなどと融合させ、極めて高いレベルでクロスオーバーな楽曲を届けていきたいんですよ」。7月11日からTOHOシネマズシャンテほかで全国順次公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:大山実/SANKEI EXPRESS)
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