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【まぜこぜエクスプレス】Vol.9 異色コラボ「やまなみ工房×PR-y」

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの社会

【まぜこぜエクスプレス】Vol.9 異色コラボ「やまなみ工房×PR-y」

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福祉作業所「やまなみ工房」の施設長、山下完和さん(右)と社会活動ユニット「PR-y」のクリエイティブディレクター、笠谷圭見さん=2014年5月10日(山下元気さん撮影、提供写真)  滋賀県甲賀市にある福祉作業所「やまなみ工房」の施設長、山下完和さんと社会活動ユニット「PR-y」のクリエイティブディレクター、笠谷圭見さん。写真集「DISTORTION」やファッションブランド「NUDE:PR-y」などで異色のコラボレーションを展開してきた2人が目指すものとは…。

 一般社団法人Get in touch理事長、東ちづるが迫る。

 やりたいことできる環境

 山下さんは面白い。くるくるの長髪に過激なファッション。まるでロッカーのような風貌から“障害者が通う作業所の施設長”という職業が想像できない。前職はバーテンダー。それまでもトラック運転手など20以上の職を転々としてきた。知人の忘れ物を届けるため、やまなみ工房を訪れたのが縁で職員となり、26年になるという。勤め始めた頃、施設は単価10円に満たない町工場の下請け作業をしていた。そんなある日、落ちていた紙に落書きをしていた人がいた。そのときの彼の楽しそうな表情に、山下さんは衝撃を受ける。「彼らが本当にやりたいことをできる環境を作ることが僕らの仕事」と気づき、下請け作業をやめた。

 それから25年。やまなみ工房は、いずれもユーモラスな粘土作品で知られる鎌江一美さんや吉川秀昭さんをはじめ、国内外で注目されるアーティストを輩出してきた。けれども、山下さんは「アートには興味がない」とそっけない。「僕らは一人一人にとって『これをすることが幸せなんだ』と思えることを追求するだけ。そして、彼らのすてきなところを知ってもらいたい」。そんな山下さんが「僕らが見逃している原石を発見し発信してくれる」と絶大な信頼を寄せるパートナーが笠谷さんだ。

 既存のイメージに反発

 日本でも「アール・ブリュット(生のままの芸術)」という言葉が知られるようになってきた。けれども、「障害者の作品」という点がことさらクローズアップされる傾向に、笠谷さんは疑問を抱いてきた。「発信する側に少しでも、慈悲を売りつける気持ちがある限り何も変わらない」。山下さんも「『すごいですね、障害があるのに』という反応は失礼」と言う。

 笠谷さんは工房に通い、創作活動の様子を写真集やドキュメンタリーフィルムに収めたり、作品を素材にしたファッションブランドをリリースしたりしてきた。型破りなやり方に、「アートを冒涜(ぼうとく)している」と美術専門家から批判されたこともあるが、2人の反逆児は「面白い、カッコいいと思うことを自分たちのスタイルで発信していく」と譲らない。

 その原動力は障害者を取り巻くネガティブな環境や既存のイメージに対する反発だ。それは社会のゆがみにほかならない。「美術界のセオリーや福祉界のしがらみに縛られず、多くの人たちに、やまなみ工房のカッコよさ、ユニークさを伝えていくことで、ゆがみを直す」。これが2人の戦略だ。その手法をアートに限る必然性はない。

 「ひとつの価値観に閉じ込めてしまうと、彼らは幸せになれない。僕らが変わり続ければ、どんどん可能性が広がっていくはず」(一般社団法人「Get in touch」理事長 東ちづる/撮影:フォトグラファー 山下元気/SANKEI EXPRESS

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