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アグネスさん 中央アフリカ訪問 復讐の種をまかないで

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アグネスさん 中央アフリカ訪問 復讐の種をまかないで

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キャンプ近くの小学生らを勇気づけるアグネスさん。子供たちの笑顔はせめてもの救いだ=2014年4月17日、中央アフリカ(日本ユニセフ協会提供)  内戦が続く中央アフリカでは紛争に巻き込まれた子供たちが死傷し、栄養失調に陥って座ることもできなくなるなど、悲惨な状況に置かれている。日本ユニセフ協会大使を務める歌手のアグネス・チャンさん(58)は4月に中央アフリカを訪れ、暴力と恐怖におののく国民の暮らしを視察し子供たちを勇気づけた。アグネスさんは「被害にあった子供たちは心に傷を負って生きている。理不尽で残酷な仕打ちを受けることは、復讐の種をまいていることに他ならない。あまり報道されることのないこうした実情を知ってほしい」と切実に訴える。

 中央アフリカは1960年の独立以来、クーデターや動乱が絶えず国家としての体をなしていない「幽霊国家」などと称される。一昨年(2012年)12月にイスラム教系の反政府武装勢力、「セレカ」が各都市を占拠し昨年(2013年)3月には首都バンギを制圧して恐怖政治を行うようになると、これに対し、キリスト教系の武装勢力、「アンチ・バラカ」が反撃。宗教対立の形で始まった紛争は国内各地で激化し、子供たちを巻き込んで残忍な殺傷が繰り返されている。

 国際連合児童基金(ユニセフ)と協力協定を結ぶ日本ユニセフ協会(本部・東京)では、アグネス大使を中央アフリカに派遣、虐げられた実情を伝えるとともに世界中に支援を呼びかけることにしたのだ。

 「紛争が続く中央アフリカへの関心は低くジャーナリストも足を踏み入れない。誰かが行かなければ」と考え中央アフリカ訪問を決意したアグネスさん。

 首都バンギに入り、車に揺られて避難民キャンプを訪れたが、現地では「ユニセフの車が武装勢力に襲われた」「国境なき医師団のメンバーが殺害された」などという物騒な情報が伝えられ危険度の高い国であることを改めて認識。実際、会うことになっていた神父も拉致され面会を果たせなかったという。

 ≪凄惨な現実 犠牲者は子供たち≫

 キャンプで肩を寄せ合う女性や子供たちから話を聞いたアグネスさんは、その悲惨な現実に恐れおののいた。

 父親を殺害されセレカに拉致された少女(17)は、教育を受けていたために手紙や文章を読む仕事をさせられた。女性たちが入浴していると兵士が入ってきて、レイプ目的にその中からお目当ての少女を連れ去ることも日常であったと明かした。少女は「将来、洋裁の店を営みたい」と告げた。

 セレカとアンチ・バラカが激しく戦った地域に住んでいた少女(16)は、兄をセレカに殺害され自宅を焼かれた。その後何度もセレカの襲撃に遭い拉致されそうになったところを、イスラム教徒に助けられた。

 僅か2歳の男児、アレックスは父親に抱かれているところを銃撃された。銃弾はアレックスの両頬を貫通し父の首に当たって父は死亡。重傷を負ったアレックスはへそから栄養分を摂取し生命を維持している。

 家が放火され逃げ遅れた3歳女児のカレーヌは内臓までやけどを負い、左半身の皮膚が生々しくピンク色に変色していた。生き延びるためには手足を切断しなければならないが、損傷を受けた皮膚が少しでも生えるまで手術もできずにいる。

 武装勢力の襲撃が、女性も子供もなく無差別状態であることに、アグネスさんは憤りと悲しみを覚える。アレックスやカレーヌに限らず、キャンプでは手足や指を吹き飛ばされた子供たちが大勢暮らす。

 「戦禍に巻き込まれた子供たちにはきっと悲しい記憶が怒り、憎しみとなってよみがえる。無差別攻撃は復讐の連鎖を生むだけなのに…」と、アグネスさんは唇をかむ。

 一方、アフリカでGDPが最大規模になったナイジェリアでは、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」が女子生徒ら270人を拉致する事件が発生。ボコ・ハラムは女子に対する西洋の教育は罪だとアピールするが、アグネスさんは「それは口実」と指摘。「女子生徒たちを売り飛ばしそれを資金源にすることが成功するなら、こうした事件が続発する」と憂いている。(文:編集委員 巽尚之/撮影:日本ユニセフ協会/SANKEI EXPRESS

 ■アグネス・チャン 1955年、香港生まれ。72年から日本で本格的な歌手活動を開始。73年上智大学入学。92年米スタンフォード大博士課程修了。98年日本ユニセフ協会の初代大使に就任。ユニセフ大使としてタイや南スーダンなどを訪れ、児童買春や人身売買などの問題を解決する糸口を探る。

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