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フィリピン、米と合同軍事演習開始 地元は回帰歓迎 経済効果も期待

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フィリピン、米と合同軍事演習開始 地元は回帰歓迎 経済効果も期待

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 米国とフィリピンは5月5日、定期合同軍事演習「バリカタン」を開始した。南シナ海への進出を強化する中国をにらみ、海洋防衛などを柱にした訓練をフィリピン各地で16日まで実施する。

 ロイター通信によると、演習には両国の兵士計約5500人が参加。南シナ海に面するルソン島で、米軍ジェット機による爆弾投下や、実弾を伴う兵士の訓練などが行われる。

 両軍の合同軍事演習は、4月下旬の米比新軍事協定の調印後初めて。新協定には、合同軍事演習の強化も盛り込まれている。

 マニラ首都圏のフィリピン軍本部で行われた開幕式で、フィリピンのアルバート・デルロサリオ外相(74)は「海洋における過度で拡張的な領有権主張により、地域の緊張が高まっている」と、名指しは避けながらも中国を批判した。

 米海軍将官「地ならし」

 冷戦終結を受けて米軍がフィリピンから完全撤退してから22年。かつてアジアで最大規模の米海軍基地を抱えていた港町は、米軍回帰を歓迎するムードに包まれていた。

 「米軍が戻ってくれば、町は再び活気に満ちあふれるだろう」

 マニラ首都圏から高速道路を経て車で2時間余り。旧米海軍のスービック基地に隣接し、基地と盛衰を共にしてきたオロンガポ市のロレン・パウリノ市長(51)は、新軍事協定が地域に与える経済効果に期待を込めた。

 協定に盛り込まれた米軍の新施設をどこに設けるかは、今後の両国間協議に委ねられている。だが、市長室には米海軍の将官が表敬に訪れ、「地ならし」が始まっているという。

 スービック湾は水深が深い入り江にある天然の良港で、米海軍がフィリピンの旧宗主国スペインから譲り受け、ベトナム戦争の出撃拠点となるなど、約90年間にわたって活用してきた。

 オロンガポ市の歓楽街は米兵でにぎわったが、1992年の基地返還で状況は一変。飲食店などが閉店に追い込まれ、約1万人が仕事を失ったという。米海軍が戻れば、飲食業が復活するほか、出稼ぎのため海外に出てしまった優秀な港湾労働者たちも戻ってくる。

 反対意見もある。協定が署名された4月28日には、市内で数十人が「米国の言いなりになるな」などと抗議活動を行ったという。2002年以降はフィリピン軍への対テロ支援で米海軍の寄港が再び増え、08年には地元女性が米兵にレイプされたと訴え出る事件も起きた。

 新たな設備投資を検討中

 パウリノ市長は「この20年で世界のグローバル化は進み、海外からの訪問者は増えている。米兵も観光客と同じだ。しかも規模が大きい」と話す。

 実際、基地の跡地で03年からクラブやホテルを経営している男性は、「米艦船が寄港すると2000~5000人の兵士が3~4日にわたり町にカネを落とす。うちの飲食の売り上げもひと晩80万ペソ(約180万円)になる」と語り、新たな設備投資を検討中という。

 フィリピン当局はスービック返還後、670平方キロメートルの敷地と80億ドル(約8150億円)相当の施設を引き継いだ。香港やシンガポールのような自由貿易港を目指し、一帯を経済特別区に指定して外資の積極誘致を進めた。

 税優遇措置にひかれ、日系製造業も工場を構えたが、日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、急に土地利用料を課されるなど混乱。日本からの借款で整備した貿易港の利用率は、計画比で1割以下にとどまっている。

 一方、フィリピン政府は、南シナ海における中国艦船への即応体制を強化するため、スービック地区の港湾や滑走路の修復を進めている。中国と領有権を争うスカボロー礁(中国名・黄岩島)への偵察監視などを強化する方針だ。(フィリピン北部オロンガポ、吉村英輝/SANKEI EXPRESS

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