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【花緑の「世界はまるで落語」】(25) 十三回忌 祖父・小さんが逝った日

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【花緑の「世界はまるで落語」】(25) 十三回忌 祖父・小さんが逝った日

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私(右)と、叔父の現・六代目小さん(当時三語楼、左)に挟まれた、僕の祖父、五代目小さん。2002年の貴重な3ショットです!(柳家花緑さん提供)  今年は祖父・五代目柳家小さんの十三回忌です。12年前の5月16日、87歳でこの世を去りました。月日がたつのは早いなぁと本当に思います。

 この写真は2002(平成14)年2月2日、鎌倉芸術館(神奈川県鎌倉市)で行われた「第30回 鎌倉名人会柳家小さん親子三代落語会」の楽屋でのスナップ写真。訪ねて来られたお客さまに撮っていただいたものです。私と、叔父の現・六代目小さん(当時三語楼)に挟まれて祖父が写っていますが、この写真、僕はなかなか貴重なものだと思います。

 「親子三代落語会」は僕が9歳で落語デビューをしてから全国いろいろなところで演(や)らせていただきました。でも楽屋でこんなふうに3人で撮った写真は、ほかにありません。演目は花緑「明烏」、三語楼「味噌蔵」、小さん「強情灸」でした。そして何とこの落語会が五代目柳家小さん生前最後の高座になったのです。

 この日以降、亡くなるまでの3カ月半、五代目小さんは体調が崩れ、高座に上がれませんでした。それでも寝たきりということではなく、好きな物も何でも食べられました。淡々と、そして寡黙に人生の最期を迎えました。

 僕は当時、明治座の五月公演「居残り佐平次」に1カ月、落語家ではなく役者として出演中でした。役者としての舞台経験は浅かったため、この1カ月公演のことは今でも忘れられません。主演を務めた風間杜夫さんとは、この舞台がご縁となり、今では二人会をよく演らせていただいております。

 訃報を聞く 舞台を務める

 祖父の亡くなった日、母からの電話で祖父のことを聞き、明治座の公演に向かいました。その日は午前11時からの昼の部1回公演。公演中に既にテレビのニュースで訃報が流れ、それを楽屋で見た俳優の渡辺哲さんが僕の楽屋へ飛び込んできて「じいちゃん亡くなったなぁ…お前は大丈夫か?」と真っ先に心配してくださったのが今でも忘れられません。明治座代表取締役会長の三田政吉さんがわざわざ僕の楽屋へいらっしゃり「花緑さん、申し訳ないが務めてください」「もちろんです。しっかり演らなければあの世の祖父にしかられます。務めさせていただきます」。そんな会話を交わして公演が終了後、急いでタクシーで実家へ。既に大変な数の報道陣が家の前にいて、囲み取材を受けました。でも何をしゃべったかは忘れました。ただ江戸家猫八師匠がマスコミの対応に慣れていらして、その時もたくさんの報道陣との間で橋渡しをしてくださったのは覚えています。

 対面の後に高座 通夜も欠席

 そうして家に入り、亡くなって数時間がたった祖父と対面。すぐ起き上がってくるような、眠っているような顔をしておりました。ですので、僕は祖父が亡くなったという実感が持てませんでした。母(小さんの娘)も気丈に、今やるべきことに意識を集中しているようでした。

 叔父の六代目小さんをはじめ、一門の先輩もどんどん家を訪れました。でも僕はその夜、またすぐ出掛け、老舗そば屋の藪伊豆総本店(東京・日本橋)であった「第26回・落語とそばの会」で、「狸の鯉」「子別れ」を演りました。

 「頑張れー!」お客さんからかけ声が飛んできたのが忘れられません。数日後にはお通夜、告別式が執り行われましたが僕は舞台出演のため、そこに列席することはできませんでした。兄の小林十市もヨーロッパでバレエ公演中で、帰国することはできませんでした。僕は骨上げ(お骨を骨つぼに収める儀式)にだけ間に合いました。小三治師匠もインタビューで話していましたが、立派な骨で骨つぼに入り切らないほど太くて丈夫そうな骨でした。

 一門総出演で追善興行

 あれから丸12年。六代目を継いだ叔父の小さんがプロデュースする「五代目柳家小さん十三回忌追善興行」が新宿末廣亭で5月11~20日に開催されます。私、花緑と叔父の小さんは毎日出演。ほか五代目の直弟子が10日間総出演します。日替わり対談コーナーもあり、トリも日替わりです。私は(5月)16日に、叔父は(5月)20日にトリを務めます。

 五代目小さんのDNA。心意気を受け継いだ一門をぜひご覧いただきたい。楽しくも心に残る寄席になると思いますよ!(落語家 柳家花緑/SANKEI EXPRESS

 ■やなぎや・かろく 1971年、東京都出身。87年、中学卒業後、祖父、五代目柳家小さんへ入門する。前座名は九太郎。89年に二つ目昇進、小緑と改名。94年、戦後最年少の22歳で真打昇進、柳家花緑と改名する。古典落語はもとより、劇作家などによる新作落語や話題のニュースを洋服と椅子という現代スタイルで口演する「同時代落語」にも取り組む。ナビゲーターや俳優としても幅広く活躍する。

 【ガイド】

 ■五代目柳家小さん 十三回忌追善興行『小さんまつり』 新宿末廣亭(東京)。5月11~20日(5月中席)。劇場(電)03・3351・2974

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