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【花緑の「世界はまるで落語」】(22) 節分でご縁を感じる年のはじまり

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【花緑の「世界はまるで落語」】(22) 節分でご縁を感じる年のはじまり

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弟子と私。左から緑君(ろっくん)、柳家花緑(やなぎや・かろく)、花いち(はないち)。そして2月3日も行われる=静岡県静岡市駿河区・平澤寺(へいたくじ、柳家花緑さん提供)  2月3日は節分です! 私は毎年必ず伺う場所があります。静岡県にある平澤寺(へいたくじ)です。もうこのお寺とのお付き合いは長くなりました。

 僕が最初にお邪魔したのが前座の時ですから26年前で17歳の頃です。師匠の五代目柳家小さんと一緒に訪れました。大勢の人の前で豆をまくのは、その時が初めてのこと。何だかとても緊張したのを覚えております。別に豆をまくのに緊張することはないんですが、高座へ上がったときに見るお客さまの顔とちょっと雰囲気が違うんです。何がどう違うのかは、もっと後になって分かってくるのですが…。

 豆をもらう必死の形相

 毎年のスケジュールは2月3日の昼前にはお寺に入り、東海軒の鯛めしと手作りの豚汁、地元で取れたイチゴにお新香を頂いているうちに、外では梵焼供養祭(ぼんしょうくようさい)が始まり、ダルマやお札などお焚き上げをしてもらいます。そして午後も1時を回るころ、本堂から100段はあろうかという石段を登っていくと立派な観音堂があり、楽しみにお見えになった檀家さんに地元の人々が今か今かと待ち続けている中、まずは女性だけによる和太鼓の演奏が行われます。

 7人くらいで、毎年同じ曲ですが、とても縁起の良い感じに威勢良くたたかれます。そして演奏が終わると、いよいよ中曽根眞南(しんなん)ご住職によるごあいさつがあり、立派に裃(かみしも)を着けさせていただいた私と弟子たちが写真のようないで立ちで豆をまくわけですが、結構な量の豆をまきます。しかも平澤寺のお豆はちゃんと「福豆」と書かれた袋に入れられているのでとても綺麗です。そこへリボンを付けた五円玉、紅白饅頭、五円をかたどったチョコレート、紅白のサイコロキャラメルなどを大きな升に入れて力の限りまき続けます。「福は~内!」「福は~内!」。「鬼は外!」は言わないですね、ここのお寺では。とにかく、後ろのほう、遠くのほうにも手を振っているお客さまがいるから、そこに届くように、次の日に肩が筋肉痛になるのもいとわず投げ続けるのです。ですが気付くと前のほうでも「か~ろくしゃ~ん!」と、目が血走って鼻水垂らしながら必死に叫ぶ、おばちゃんやら子供たちがいる。他人(ひと)より多くの豆をもらおうと亡者の叫びを見るかのような、すごい熱気なわけです。そこへ上からジャンジャン豆をまいていくと自分が権力のある偉い人物になったような錯覚を覚えます。毎年そうしてまかせていただき、なんでこんなにも普段おとなしい草食系な静岡県人が肉食系に変貌するのかと考えましたら、理由が僕なりにわかりました。

 始まる前の太鼓です。

 あの和太鼓演奏により心臓の鼓動が2割増しアップし勢いが付くのだと思いました。試しに一度、静かなクラシック音楽とかを流しながらやってみれば違いが分かるんじゃないかと思います。

 先代小さんと「剣道の友」

 無事に豆まきが終わると、本堂で落語会が始まります。ハジける程に笑ってくれるお客さまにこっちもうれしくなります。その後、世話人さん方との打ち上げ、夜はご住職ご家族との会食。泊まって次の日はご住職のお客さま50名様を前にお座敷での落語会とお食事。ここまでが毎年の節分コース。

 ここのお寺のご縁は、祖父の小さんと先代のご住職が、互いに剣道が好きで、剣の道で友情を深めたからです。そうして毎年節分になると、祖父が訪れるようになりました。昭和40年代から毎年です。そのうち、私に代替わりをして今は、毎年何があっても、祖父から受け継いだこの節分と落語会は出演させていただくつもりで、お寺さんとは家族ぐるみのお付き合いを続けさせていただいております。

 師匠からのご縁をつながせてもらっていることが、何より名誉、この上ない喜びです。僕の本当の一年のスタートは、毎年ここからなのです。(落語家 柳家花緑/SANKEI EXPRESS

 ■やなぎや・かろく 1971年、東京都出身。87年、中学卒業後、祖父、五代目柳家小さんへ入門する。前座名は九太郎。89年に二つ目昇進、小緑と改名。94年、戦後最年少の22歳で真打昇進、柳家花緑と改名する。古典落語はもとより、劇作家などによる新作落語や話題のニュースを洋服と椅子という現代スタイルで口演する「同時代落語」にも取り組む。ナビゲーターや俳優としても幅広く活躍する。

 【ガイド】

 ■独演会「花緑飛翔スペシャル」vol.11 2月7日 午後7時開演。銀座ブロッサム中央会館(東京)。東京音協(電)03・5774・3030

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