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【花緑の「世界はまるで落語」】(23) 頼りになる圧倒的な存在感

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【花緑の「世界はまるで落語」】(23) 頼りになる圧倒的な存在感

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飛行機から撮影した“朝日込み”の富士山のベストショット。テンションが上がりまくりました!=2014年2月16日(柳家花緑さん撮影)  私は富士山が好きです。しかもかなり好きです。でも、登ったことはありません。それじゃたいして好きではないように聞こえるかも知れませんが、とても好きなんです。いずれ頂上からのご来光を拝みたいと思っております。何が好きって、やはり姿がいい。僕の中で何かを見てうっとりするものの中ではナンバーワンです。だからよく写真に撮ります。一番多いのは新幹線の中から。東海道新幹線の新富士駅を通過するあたりで見える富士山には興奮します。もちろん、毎回は見えません。仕事でよく新幹線移動をさせてもらうのですが、すっぽり雲に覆われてあんなに大きいのに少しも見えないなんてことはよくあります。ああ~今日はお休みか! じゃ~また今度ねぇ! こんな感じでハズレても「また見られるから…」と自分に言い聞かせガッカリしないように自分自身をコントロールしているわけです。だから最初のうちは、富士山見えたら縁起がいい!とか言ってましたが、それもやめました。だって見えない時は縁起が悪いみたいじゃないですか。こんなところで落ち込んでいたら、さぁーこれから独演会だという時は困ってしまいます。落ち込みながら落語は喋れません。だから見えても見えなくても平静を装います。でもですね! この写真のような富士山が眼下に現れたら大変です。テンション上がりまくりです。

 レア感満載な姿に感動

 この写真は2月16日の朝、東京の羽田空港から長崎県へ向かう飛行機の座席から撮影出来たものです。いやはや、うれしかったぁ。いつもの横から眺めるおなじみの形と違って真上からポッカリと口を開けた頂上を見下ろすと、見てはいけないものを見たような、レア感満載なその姿に感動し、うれしさが胸に広がりました。なんだか惜しげもなく、全てをさらけ出しているように見受けられ「富士山て大人だなぁ…」なんて、間違った感動を勝手に抱きました。朝日が水面に反射してる辺りもいい感じ。

 アップで撮るより“朝日込み”の富士山に神秘性をより感じ、僕なりのベストショットとなりました。

 今までで一番至近距離で眺めることができたのは、10年ほど前。新幹線の新富士駅を降りて10分くらいの会場での落語会。静岡県清水市出身の春風亭昇太師匠との二人会でした。もう駅を降りた途端、自分の視界の3分の2が富士山。3分の1が空!という絶景に興奮して思わず「スゲー! スゲー! スッゲー!」とスゲーを売って歩いているのかと思われるほど叫びまくって会場に到着しました。

 するとその日の昇太師匠の高座でこんなふうに言われました。「花緑さんが駅降りた途端に興奮してうるさいんですよ。でも地元の人間に言わせれば、富士山なんて別にね…ああ~明日は雨かな?とか明日のお天気の予報の足しにしてるくらいで、そんな見るたびに、ああっ! 富士山だー!!! なんていちいち感動してたら地元は身が持たない。もう毎日ドキドキしてたら生きていけません!」と。お客さん大爆笑! よくぞ言ってくれた昇太! という感じで見事に地元のお客さんの心をつかんでいました。

 僕は富士山の近くに住んでいる人々を羨ましく思っていましたが、どうやらそうでもなさそうでした!

 思いはより強まり深まる

 東京を江戸といった時代から富士山は信仰の対象であり、人々の憧れでした。もちろん今でもそれは変わらないでしょう。昨年、世界文化遺産になり、見る人々の思いはより強まり深まったと思います。

 人間には「ああ~かなわない」と思うような圧倒的な存在を求める気持ちがあると思います。

 そこに寄り掛かり、癒やされ、励まされたいと思う気持ちがある。東京の空に時折、見える富士山は、関東の人間を見守ってくれているような安心感をもたらすんだと思います。だから今日も安心して高座をつとめます! お陰さまだなぁ~。(落語家 柳家花緑、写真も/SANKEI EXPRESS

 ■やなぎや・かろく 1971年、東京都出身。87年、中学卒業後、祖父、五代目柳家小さんへ入門する。前座名は九太郎。89年に二つ目昇進、小緑と改名。94年、戦後最年少の22歳で真打昇進、柳家花緑と改名する。古典落語はもとより、劇作家などによる新作落語や話題のニュースを洋服と椅子という現代スタイルで口演する「同時代落語」にも取り組む。ナビゲーターや俳優としても幅広く活躍する。

 【ガイド】

 ■「花緑・菊志ん二人会」 3月11日 午後7時~

横浜にぎわい座 (電)045・231・2515。

 ■柳家花緑「独演会」 3月21日 午後6時~(夜の部)

三鷹市芸術文化センター星のホール (電)0422・47・5122。※昼の部完売

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