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「小保方さんは美人だから」…異常で愚劣な「STAP細胞」報道

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「小保方さんは美人だから」…異常で愚劣な「STAP細胞」報道

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多数の報道陣が詰めかけた小保方晴子(おぼかた・はるこ)氏の記者会見=2014年4月9日、大阪市北区(彦野公太朗撮影)  【メディアと社会】渡辺武達

 新たな万能細胞とされた「STAP細胞」論文問題がメディアをにぎわしているが、万能細胞研究者ではない筆者にその科学的真偽は判断できない。しかし、英国で発行されている権威ある科学誌「ネイチャー」に掲載された論文についての議論はあまりにもいい加減で、報道も理化学研究所(理研)や共著者に対する批判や糾弾だけに終始している。

 「金のなる木」にむらがる

 「刺激惹起性多能性獲得」(Stimulus Triggered Acquisition of Pluripotency)の頭文字から命名されたSTAP細胞は、小保方晴子(おぼかた・はるこ)研究ユニットリーダー(30)を中心とするグループが作製に「成功した」と発表されたもの。2012年度のノーベル生理学・医学賞を授与された山中伸弥(しんや)氏らのグループが開発した人工多能性幹細胞(iPS細胞)よりもはるかに簡単な方法で、万能細胞を作製できたとの説明がなされ、世界を驚愕(きょうがく)させた。

 STAP細胞の研究は小保方氏が留学していた米ハーバード大学医学部での研鑽(けんさん)が基礎になっていると本人も語っている。筆者は2001年にハーバード大学で表現の自由とジャーナリズム分野の研究員をしていた。その際、別キャンパスの医学部での勉強会にも参加した。びっくりしたのは、この分野の研究費が極めた潤沢で、ミーティングもワイン付きで豪勢だったことだ。大学の近くのチャールズ川のほとりには万能細胞の研究を支援をする民間の研究所がそびえていた。

 その成果は「金のなる木」に育つと期待され、万能細胞の開発成功者には名誉と同時に、富も付いてくる。多くの研究者や私企業が「金のなる木」にむらがり、人類社会への貢献という科学の本来の使命は忘れられがちだった。

 大騒ぎしたものの

 一方で、メディアにとっても、議論が「活劇化」すればするほど、オーディエンス(読者・視聴者)が喜び、結果として業績(視聴率と販売部数)が伸びる。実際、1月30日に「ネイチャー」に論文が発表された直後は、「理系女子」の快挙を大きく取り上げ、論文に疑惑が浮上すると、さらに大きく報じるようになった。

 11年3月の東日本大震災で同時発生した東京電力福島第1原発事故の報道でも同じようなことが起きた。各テレビ局やメディアが、「原子力問題専門家」を動員して大騒ぎしたが、結局、誰も原子炉の中で何が起きているかを正確に分析あるいは予測することすらできず、「想定外」という言葉だけが残った。そして3年がたったいまもなお、15万人以上が避難生活を強いられている。

 「美人」と言わせ笑いをとる

 さてSTAP細胞問題は今後、どう展開していくのだろうか。現段階で、さまざまな仮説を立てても意味がない。小保方氏は「200回作製に成功した」と言っているのだから、小保方氏自らが、その成功したやり方を検証者たちに伝授し、理研だけでなく文部科学省も総力を挙げて検証を行えば、半年もたたずに真偽が判明する。

 これだけ世界中で有名になれば、作製方法の特許が誰かに奪われるという心配もないので、その公開をもったいぶる必要はまったくない。

 理研は、検証の経過を適宜公開し、メディアも淡々と報道すればよい。理研や小保方氏、論文の共著者たちが個別に記者会見を開き、そこに300人もの記者が集まり、テレビが実況中継し、その信用性を論じる報道は異常だ。ましてや街中でインタビューをして、「小保方さんは美人だから、その発表を信じる!」と言わせて、笑いをとるといった報道は愚劣でしかない。(同志社大学社会学部教授 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS

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