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米国が譲れないトラック高関税のからくり 「light truck」とは

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米国が譲れないトラック高関税のからくり 「light truck」とは

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米国の自動車出荷額の推移=1992年~2013年、※データ:米国勢調査局  【国際政治経済学入門】

 2月22日からシンガポールで環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)閣僚会合が始まる。TPP交渉は、「日本のコメ対米国の自動車」という構図にある。ところが、国内メディアは不十分な知識で報道しているから、なぜこうも米国が日本に対して強硬なのか理解できなくなる。

 典型的なのが2月16日付の日本経済新聞朝刊第3面の「日米『聖域』妥協点探る」というトップ記事である。この記事は、米国の「自動車」関税率が2.5%、「トラック」関税率が25%だという説明の基に書かれている。一見すると、「トラックは高関税だが、日本の輸出には大した影響はないから、まあいいじゃないか。2.5%の自動車関税の方が重要だ」と思わされる。ところが、米国はトラックの高関税でゼネラル・モータース(GM)など米自動車ビッグスリーを保護している。その仕掛けは米国特有の関税分類にある。

 「light truck」とは

 米国はクルマを「オートモービル(automobile)」と「ライト・トラック(light truck)」に分け、それぞれ2・5%、25%の関税率を適用している。日経はこのライト・トラックを「トラック」と言い換えている。大間違いである。

 米国で言うトラックは、ライト(軽量)とヘビー(重量)に区分けされている。ライト・トラックはピックアップ・トラックのように荷台つきの小型トラックを指すばかりではない。4輪駆動などスポーツ用多目的車(SUV)を含めており、サイズも大きい。SUVこそが、米国人の好むクルマであり、ビッグスリーの主力収益源である。

 各社別のモデルで言えば、ジープ・グランドチェロキー、フォード・エクスペディションが代表的だが、日本のトヨタ・ランドクルーザー、英国のランドローバー・レンジローバー、ドイツンのベンツGLクラスなどがある。これらの形をみれば、荷台はなく、トラックではなく、乗用車の部類に入ると誰もが思うだろう。

 グラフを見てもわかるように、米国で生産されているクルマの出荷額は1997年以来、ライト・トラックがオートモービルを圧倒している。

 米国がライト・トラックに高関税をかけたのは63年と、50年以上も前である。当時、米国は民主党のL・ジョンソン政権で、フランスと西ドイツ(現ドイツ)が輸入米国産チキンに高関税をかけたのに対抗して、ブランデーなどとともにライト・トラックへの25%関税で報復した。米欧は61年以来チキン問題で激しく応酬してきたことから「チキン戦争」と呼ばれ、64年に終結した。しかし、64年に大統領選挙を控えているため、民主党支持基盤の一大勢力である全米自動車労組(UAW)の要請を受けてライト・トラックの25%関税だけはそのまま残し、現在に至る。

 つまり、ライト・トラック関税は極めて政治的な動機によって堅持されてきた。しかも、グラフからも推測されるように、ライト・トラックは年々重要性が高まり、ビッグスリーの死活がかかっている。その関税を撤廃することに、米自動車業界もUAWも重大な危機意識を持つのだ。

 しかも、米国議会は今秋の中間選挙を控えている。オバマ民主党政権がライト・トラック関税で譲歩するのはいかにも具合が悪い状況は、50年前と変わらない。

 TPPで窮地

 米国では、議会が通商交渉の一つ一つの項目の可否の権限を持っている。多岐にわたるTPPなどの交渉の場合、議会が合意案を一括審議し承認するようにしないと、米政府は他国との交渉がはかどらなくなる。そこでオバマ政権は昨年(2013年)12月に一括交渉権限を議会が大統領に与える貿易促進権限(TPA)法案を議会に提出したが、上院の民主党トップであるリード院内総務は法案審議を留保している。TPA法案が成立しないと、米通商代表部(USTR)は事実上、TPPのような多角的通商交渉を進められなくなる。

 オバマ政権はTPPで日本の農産物関税撤廃などで攻勢をかけているように見えるが、窮地に立っている。米国に甘い日本のメディアはとかく日本の農産物保護だけをやり玉に挙げて、日本にとって不利な方向に世論を誘導しかねない。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS (動画))

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