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生きている作品であり続けることが大事 「GOSICK RED」作家 桜庭一樹さん

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生きている作品であり続けることが大事 「GOSICK RED」作家 桜庭一樹さん

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作家、桜庭一樹さん。ファンが待ちに待った続編を刊行。「結論を出すよりも、生きたシリーズであり続けたい」と話す=東京都千代田区(瀧誠四郎撮影)  【本の話をしよう】

 あの名コンビが帰ってきた-。直木賞作家、桜庭一樹さんが送る人気ミステリーシリーズ「GOSICK(ゴシック)」、待望の続編「GOSICK RED(レッド)」が刊行された。新大陸を舞台に、ヴィクトリカと一弥の新たなる物語が始まる。

 初めて重版かかった

 「GOSICK」は20世紀初頭のヨーロッパの架空の小国を舞台に、天才的な頭脳と美貌を持つ少女・ヴィクトリカと、東洋からやってきた留学生の少年・一弥が難事件を解決していく、ちょっとダークなテイストのミステリー。2003年以来計13冊(角川文庫)が刊行、11年には2クールにわたってテレビアニメ化され、壮大な歴史観とアニメならではの魅力的な演出で熱烈な支持を得た。

 「10年間書き続けた作品は、ほかにはありません。時の流れの中で消費されて消えていく可能性もあった物語が、こうして愛され続けている。本当にありがたいです」。そんな桜庭さんにとって、GOSICKは作家としてのターニングポイントとなった作品でもある。

 「自分のオリジナル作品で、初めて重版がかかった作品なんです。それまで『本当に自分の作品は読まれているのかな?』と不安ばかりだった。でも、GOSICKは部数的にも手応えがあり、読者がイラストを書いて送ってくれたりして…『読んでくれている人がいるんだな』ってすごく思えました」

 2011年にグランドフィナーレを迎えたシリーズだが、この度、ファンにとっては待望の続編がスタートする。「もともとシャーロック・ホームズやルパンが大好きでミステリーを書き始めました。GOSICKも、時代を超えて、そのたびに新しい読者に発見され、読まれ続ける作品になってほしかった。そのためには、完結させることよりは、生きている作品であり続けることが大事だと思っていて…」

 実在の都市が舞台

 今回の舞台は、1931年のニューヨーク。私立探偵と新聞記者として生活するヴィクトリカと一弥だが、マフィアの殺人事件をきっかけに、恐るべき陰謀へと巻き込まれていく-。

 ニューヨークを舞台にするにあたり、実際に現地での取材を行った。「今までは、女の子の大好きなエッセンスを集めた架空の国が舞台でしたが、今回は実在の都市。実際に知っている人にも違和感がないように」。街を歩く中、ヴィクトリカや一弥が暮らすアパートや、勤務先の新聞社などにぴったりの建物を発見。世界観を確立させていった。「現実のニューヨークをベースに、例えばリトルイタリーならもっとカラフルに、というように各地区の性格をデフォルメして、GOSICKらしさを作り上げていきました。作品に登場する主要な場所の地図も実際の街と重なり合っているので、もしニューヨークを訪れたら、作中の風景と比べていただいても面白いかもしれません」

 旧大陸・ヨーロッパからやってきた太古の神話の血をひくヴィクトリカに対し、新しい世界・アメリカに生きる者たちは、畏れ、引きつけられていく。「新しい秩序の中で生きようとしながらも、古い世界から続く原始的な存在にかしずきたくなる。歴史がない新しい国だからこそ傲慢であり、一方で古いものへの畏れを持ち続ける。それはアメリカという国だけでなく、『地方』に対する『都会』のあり方にも通じます。『そうか、アメリカって世界の中の都会なんだな』と気づかされました」

 変わらない関係

 少年少女の読者も楽しめるように設定されている作品だが、重厚な世界観はあらゆる世代を引きつける。ヴィクトリカをはじめ、それぞれの登場人物たちの存在感の確かさゆえだ。「登場人物たちは、それぞれの家や国の歴史を考えた結果、生まれる。今回の作品だけでなく、一人一人の存在をタテ軸で考えるようにしています」

 ヴィクトリカと一弥の2人の関係も、ファンにとっては気になるポイントだ。「あえて2人の『変わらない部分』を書きました。友達と再会するときもそうですが、変わっていないところでつながりたいと思うから」。2人の“変わらない部分”とは-。

 「一弥はヴィクトリカを大切に思いつつ、本来は他の人とでもやっていける人だけど、ヴィクトリカは特別な相手としか一緒にいられない。もし一弥がいなくなったら本当の独りぼっちになってしまうことを、本能的に分かっているんです。彼女にとっては、幸せは継続ではなく瞬間で、その一つ一つを毎回、大切に受け取っている。2人のそんな関係は、ずっと変わることはありません」

 土地と歴史、強くひかれあう無垢な魂たち…。そんな桜庭作品のエッセンスが凝縮されたGOSICKシリーズ。これまでの作品を読んでいないから…と尻込みする必要はない。「今回の新刊から読み始めて、過去の作品にさかのぼるという楽しみ方もできます」

 2014年は、格闘技に青春をかける少女たちの群像劇『赤×ピンク』と、直木賞受賞作『私の男』とがそれぞれ映画化される“桜庭イヤー”。「映画をきっかけに、新しい読者の方に出会えるのが楽しみです」(文:塩塚夢/撮影:瀧誠四郎/SANKEI EXPRESS

 ■さくらば・かずき 1971年生まれ。鳥取県出身。99年「夜空に、満天の星」で第1回ファミ通エンタテインメント大賞(現在はエンターブレインえんため大賞)佳作入選。2007年『赤朽葉家の伝説』で第28回吉川英治文学新人賞候補、第137回直木賞候補、第60回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編部門)受賞。08年『私の男』で第138回直木賞受賞。

「GOSICK RED」(桜庭一樹著/角川書店、1155円)

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