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合繊各社、W杯で技術力勝負 帝人は高機能スパイクで7割狙う

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合繊各社、W杯で技術力勝負 帝人は高機能スパイクで7割狙う

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 6月開幕のサッカーワールドカップ(W杯)ブラジル大会では、サッカーシューズ向け人工皮革を製造する国内合成繊維メーカーに熱い視線が注がれそうだ。4年前の前回大会で出場選手が履いたスパイクの約4割に採用された帝人は、使う選手がさらに増える見込み。世界で約10億人が観戦する一大イベントだけに、選手を通じて技術力をアピールし商機拡大をうかがう。

 天然皮革を逆転

 東京・渋谷の「サッカーショップKAMO渋谷店」。3月下旬の店内をのぞくと、黄色や赤色などカラフルなデザインのシューズが並んでいた。

 「7割が天然皮革、3割が人工皮革の時代もあったが、今は逆転している」。同店の柳田崇店長はこう話す。1990年代はシューズの上部全体にカンガルーの皮革を使った黒色の画一的なデザインが主流だった。現在は特殊な人工皮革を使い、縫い目もないゴムのような風合いの奇抜なデザインのシューズも珍しくない。世界のトップ選手が履くスパイクも人工皮革だ。

 なぜ“逆転現象”が起きたのか。動物愛護機運の高まりで良質な天然皮革の入手が困難になったこともあるが「技術革新の力が大きい」と帝人傘下の帝人コードレの久保勝人社長は強調する。

 人工皮革は、合成繊維の生地にポリウレタンなどの合成樹脂を塗布して製造する。基礎となる合繊では、日本メーカーが吸温性や速乾性に優れた機能性繊維を開発するなど高い技術力を蓄積。こうして培った技術を応用し、シューズでも画期的な商品を生んだ。

 例えば米ナイキ製に採用されている「スキン皮革」は、極薄のメッシュとポリウレタンフィルムを組み合わせ、はだしのような感覚を実現した新素材だ。

 耐久性やフィット感が課題とされた人工皮革は90年代、天然皮革の代替品として汎用(はんよう)モデルに多く採用されたが「今では天然皮革を超える性能を発揮できる」と久保社長は断言する。

 軽さとグリップ力

 人工皮革は同社のほか、東レや旭化成、クラレの合繊大手4社が主に製造する。その中で帝人コードレは80年代から開発をスポーツ分野に特化、2000年代からサッカー分野を強化した。今では売上高約50億円のうちスポーツ分野が7割で、その約3分の1がサッカー関連だ。

 ただ円高などの影響で00年代以降、世界シェアの6割を中国メーカーが占め、日本勢は1割にとどまる。そうした状況で久保社長がターゲットに据えたのが、シューズ市場の約1割といわれる1万5000円以上の高価格帯の人工皮革だ。“グローバルニッチトップ”を目標に、開発は世界のトップ選手に使われる高機能素材に絞った。

 特にナイキや独アディダスとの共同開発にこだわった。「両社の商品発想はダイナミックに変化している。その感性に対応できる技術のベースが帝人にあった」と久保社長は話す。圧倒的な軽さやグリップ力などの高機能性を実現した人工皮革は、欧州のあるトップ選手に「この素材以外のスパイクはもう履けない」と言わしめた。久保社長は「今回のW杯ではトップ選手の7割使用が目標。17年度にはサッカー関連の売上高で1割増を目指す」と強気だ。

 だが全体のシェアでは中国に差をつけられ、台湾や韓国勢の技術力も向上。「人工皮革から全く新しい素材に置き換えられるかもしれない」と警戒する。高機能分野でシェアを確保するには、革新的な商品開発力が求められる。(西村利也)

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