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炭素繊維、量販車採用へ進化 帝人、東レ コストと安全性の両立目指す
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鉄の4分の1の軽さながら10倍の強度がある先端素材「炭素繊維」。最新鋭の航空機に使われるなど用途は着実に増えているが、その需要量を飛躍的に伸ばす鍵とされるのが自動車向けだ。近年は一部の高級車に採用されてはいるものの、量拡大の突破口となる量販車向けへの採用には至っていない。鋼鉄に比べて高い製造コストなど課題はあるものの、素材メーカーは自動車メーカーと共同研究に乗り出すなど、期待は大きい。
「帝人の一つの大きな核にできると確信を持っている」
1月31日、都内で行われた帝人の新社長発表会見。4月に社長就任予定の鈴木純取締役常務執行役員は、自動車向けの炭素繊維事業に期待感を示した。
同社は、2011年に冷えると固まる熱可塑性樹脂を使用した炭素繊維複合材料の成形技術を確立。熱を加えると固まる主流の熱硬化性樹脂に比べ、焼き固める工程を省けるため、炭素繊維から部材製品への成形加工まで、従来の5分から10分程度かかった時間を大幅に短縮した。
12年には米自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)と提携し、松山事業所内に試験施設を稼働。15年以降に量販車への部材や部品としての採用で他社に先駆けることで、炭素繊維市場で世界約4割のトップシェアを持つ東レを追う。
一般的に熱可塑性樹脂を使った炭素繊維は生産コストを抑えられるが、成形しやすくするため樹脂を軟らかくする分、強度面や安全性で不安な部分が残る。一方、熱硬化樹脂の炭素繊維はコストと成形時間がかかるが、衝撃強度が高いとされる。
帝人は熱可塑の量産性やリサイクルのしやすさに将来性があると判断した。鈴木常務は「熱可塑は熱で溶かすことができるので、溶かした後に再利用でき、修理もしやすい」と優位性を強調する。日米で自動車への燃費規制がさらに強化されることも、炭素繊維の採用へ追い風になるとみており、「18~20年の間に炭素繊維採用の自動車がいっぱい走っている」と話す。
一方、東レの日覚昭広社長は炭素繊維の量販車への本格採用については「もう少し時間がかかるだろう」と慎重だ。「航空機は使用量が多いので炭素繊維による軽量化の燃費改善効果が大きいが、自動車の場合は軽量化よりも運転の仕方(の改善)などの方が(低燃費への貢献は)大きい」と説明。東レは熱可塑での強度向上と、熱硬化の加工時間を短縮する製法の両方を同時並行で進めている。
量販車への採用が進まない理由は他にもある。鉄鋼各社は軽量化の技術開発に注力するほか、自動車各社もエンジンの小型化や部品数の削減で燃費改善を進める。炭素繊維の製造コストは鋼鉄よりも約30倍も高いとされ、量販車に採用するメリットはまだ低いのが現状だ。
帝人の鈴木常務は「(炭素繊維を採用しなくても)各国の燃費規制はクリアしてくるだろう」と素直に認めている。それでも「どこか1社が本格採用すれば、一気に採用は広がる」と期待を寄せる。
コストと安全性の両立。さらには量産体制を構築できなければ、炭素繊維の量販車への採用拡大は困難だ。ただ、航空機は約30年かかり炭素繊維に置き換わってきており、素材各社の挑戦はこれからだ。(西村利也)