岸田文雄外相は4日、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉で閣僚協議を再開するため渡欧し、欧州産農産物と日本車の市場開放をめぐり政治決着を目指す。ただ、東京都議選での自民党の惨敗で、日本側が譲歩すれば農家の反発が広がって政権が揺らぎかねないとの懸念が指摘されており、交渉の手足が縛られる恐れがある。(高木克聡)
「日欧EPAで下手に譲れば、農家が一気に離れる」。都議選から一夜明けた3日、自民党幹部はこう述べ、危機感を募らせた。
日本はEUが課す10%の自動車関税を早期に撤廃させたい考えだが、EUは見返りに農業分野での譲歩を迫っている。
特に世界最大の生産地であるチーズは全品目の撤廃を求めて一歩も譲らず、品目を限定した撤廃や削減にとどめたい日本との隔たりは大きい。
日本が輸入する欧州産チーズは年間約400億円。欧州への自動車輸出額(約1兆2500億円)に比べれば規模は小さいが、合意のためチーズを犠牲にすれば酪農家や生産者の反発は必至だ。「政権は傲慢」と受け取られ、惨敗の影響が全国に広がる危険性があるため、安易な妥協は許されないと自民党は危惧する。
とはいえ、自由貿易を成長戦略の柱に掲げ、世界の保護主義的な動きに対抗する“旗手”を目指す政府にとって、大枠合意を見送っても批判が避けられない。
12日からは神奈川県箱根町で米国抜きの環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加11カ国による首席交渉官会合を控え、政府はその前に日欧EPAを妥結し、TPP交渉に弾みをつける考え。
訪欧する岸田氏は6日に予定する日欧首脳会談までの決着を目指すが、農家の納得と大枠合意の両立という厳しい課題を突きつけられた。