人生全般のよき師匠に
本作はルコリネとドルメールの人生を変えることになった。本作の撮影前、もともとカメラマンを志望していたルコリネは「女優になるなんて夢にも思わなかった」、映画初出演のドルメールも「デプレシャンという監督の名前すら知らなかった」…と周囲に語っていたらしい。どちらかと言えば、2人とも本作の出演にとびきり積極的だったというわけではなかった。
では、映画の先生役を担ったデプレシャン監督は2人をどう育てたのだろう。「撮影前、『プレーする』とは演じるという意味ではなく、『遊ぶ』という意味だと解釈してもらいました。私はリアリズムを求めているわけではありません。プレー(遊ぶこと)を楽しんでほしいと教えたのです」。まずは演技に臨む心構えを意識させることに多くの時間を割いた。
ただ、ルコリネについては、演出以前の問題も絡んで骨が折れた。「彼女はとても頑固で、自分の殻の中に閉じ籠もっているようなところがありました。例えば、ダンスシーンの撮影に入る前。私は『君はダンスすることが好きですか』と尋ねると、彼女は『私はダンスが嫌いだし、踊れません』というのです。だから私は彼女の前で振り付けをしてみせ、粘り強く教え込んだのです」