主任学芸員の長門佐季さんはこう解説する。「坂倉は、2階は絵画のための閉じられた空間、1階のピロティは彫刻のための開かれた空間を意図していたそうです」
人は絵画と彫刻とどう向き合うのか。2つの空間を行き来しつつ、より豊かで快適な鑑賞体験をしてほしい-そんな建築家のこまやかな配慮がある。しかも、2階も完全に閉じられてはおらず、L字形の第1展示室から第2展示室に向かう途中、中庭を見下ろしたり空を見上げたりと、一瞬リセットできるのがいい。風が通り抜け、八幡宮の森からは蝉(せみ)しぐれが聞こえてくる。
単に建物保存を望むのではなく、「美術館として残ってほしいのですが…」と長門さん。住宅なら住宅、商業ビルなら商業ビル、美術館なら美術館にふさわしい空間を、坂倉は考え抜いた。そんな建築家の思いも含めて残せないものだろうか。