子供の頃から年越しは、近所から聞こえる除夜の鐘の音を聞いて過ごしてきた。生の音を聞けなくても、必ずテレビやラジオで鐘の音を聞く。除夜とは「旧年を除く夜」という意味。百八打の鐘を撞(つ)き、鐘の音を聞くことで煩悩を払い、清らかな心で新年を迎える、日本人にとって大切な節目の行事だ。
年末年始、下鴨神社の大祓(おおはらい)と元旦の歳旦祭(さいたんさい)を撮影するため、年越しを京都で過ごした。京都の正月について尋ねると、みな「知恩院さんに行ったことはありますか?」「『おけら参り』に行かないと」と口をそろえる。「をけら詣(まい)り」とは、知恩院で除夜の鐘を聞いたあと、隣の八坂神社で新年の参拝をして「をけら火」をいただく風習のことだ。そんななか縁あって、知恩院の除夜の鐘の風景を撮影させていただけることになった。
午後8時に知恩院に到着し、僕が最初に目にして驚いたのは、鐘の大きさだった。江戸時代の1636(寛永13)年に鋳造された鐘は、日本三大梵鐘(ぼんしょう)の一つに数えられ、知恩院第三十二世の雄譽霊巖上人(おうよれいがんしょうにん)が信者に寄進を呼びかけ、徳川幕府の力を借りずに完成させたものだと聞く。