桶(おけ)は毎日のように使われてきた道具。水をくんだり、酒やしょうゆなどを貯蔵するためのものだ。シンプルな形ゆえに、木の特徴そのものが生かされる。京都一の桶職人と呼ばれた祖父、重要無形文化財保持者の父を持ち、三代目として比良(滋賀県大津市大物)で木桶をつくり続ける中川周士(しゅうじ)氏の工房を訪れた。
桶に向くのは、桧、杉、椹(さわら、桧の一種)、槇(まき)などの針葉樹である。針葉樹は真っすぐに伸び、木目が素直で、水に強くて狂いが生じにくい。木の種類によっても用途が異なる。
香りが強く殺菌効果の高い桧は浴槽やたんすに、椹は香りがやさしく酸にも強いので、お櫃やすしの飯切り、料理の器などに向く。高野槇は水に強いので、浴槽や湯桶、腰掛けなどの材料に。杉は木目が強く風格があり、香りは酒に合うので、酒器や調度品にも使われる。先人たちが蓄積してきた知恵が伝承され、いまに至っている。