□映画「大いなる沈黙へ-グランド・シャルトルーズ修道院」
劇場にいるときにたまらなく好きな瞬間がある。それは沈黙だ。カーテンコールの割れるような拍手ももちろん素敵だけど、芝居の最中、劇場内の空間を共有している全ての人間が目の前で起こっているものに集中し、固唾(かたず)をのんで次の瞬間を待ち構えているときに生まれる限りなく深い沈黙。この瞬間こそ劇場での一番の醍醐味だと僕は考える。一番強いドラマが生まれる瞬間というのは必ずしも人が泣き叫んでいるときでも、荘厳な音楽が鳴り響いているときでもない。静寂のなかに圧倒的な熱量を内包した沈黙というのが確かに存在する。
音楽も語りもなく
修道院という言葉の持つミステリアスな印象は、おそらく多くの人にとってこの映画に食指が動く理由の一つになるのではないだろうか。僕もその一人だ。しかし、この映画を見るならばそれ相応の覚悟を持って劇場に向かうことをお勧めする。なぜならこの映画は言葉で直接情報を伝えてくれるわけでも、美しい音楽で感情を扇動してくれるわけでもないからだ。カトリック教会の中でも厳しい戒律で知られるグランド・シャルトルーズ修道院が撮影のために出した条件は、中に入るのは監督一人のみ、さらに音楽もナレーションも照明も使用しないことだった。